第5話(お湯を注いで)

 台所から甲高い笛の五月蠅うるさく響き始めた。


「敵襲か!」

「いいえ、お湯の煮えたことを知らせる合図です」


 源内があわてて台所に駆けつけ、瓦斯ガス焜炉コンロの火を消した。安全のため瓦斯の元栓を閉めることも忘れなかった。空気が乾燥する季節なので、火の元には、特に用心しなければならないのだ。

 そうして戸棚から割り箸を1ぜん取りだし、薬缶やかんを持ち食卓に戻った。

 信長が見ている目の前で、白い力もちうどんの容器に熱湯が注がれる。

 出汁だしうまそうな香りを含む湯気が漂い、信長の鼻をくすぐった。


「なぬ! まこと、よい匂いではないか!」

「そうでしょう。しばらく待ちますと美味しい饂飩ができあがりまする」

「であるか!」

「はい」


 5分間を待つ間に、源内ははさみを器用に使って、一体化している粉末出汁だしの小袋と七味唐辛子の小袋を、その境界に沿って寸分の狂いもなく切断した。

 七味唐辛子の小袋は先に開封しておく。饂飩ができあがったら、すぐに七味を振りかけることができるのだ。

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