連想推理探偵部⑪
そもそも相原がやってくるタイミングが偶然にしては出来過ぎている。 思乃と想太の行く先を見て、おそらくは尾けていたのだ。
「は? はぁ・・・ッ!? 突然何を言っているのよ!!」
それでもまるで台本でもあるかのように相原は驚いてみせた。
「だって、そうとしか考えられないもの」
「その証拠はあるの!?」
「『証拠はあるの?』という言葉を使った人の99%が犯人というのが私の持説なんだけど、まぁいいわ」
その時タイミングよく想太がある資料を持ってやってきた。
「思乃さーん! 調べたらありましたよ、っと・・・。 美鈴さん本当にここにいたんですね! トイレは大丈・・・」
「それより調べものの結果は?」
「あぁ、はい! 二年前の未解決の依頼。 その被害者は相原さん、これって貴女ですよね!?」
「ッ・・・」
その言葉に相原は著しく動揺した。
「やっぱりねぇ・・・。 どうしてこんなことをしたの? 解決できなかったという恨みから?」
問うと観念したかのように相原は言った。
「・・・えぇ、そうよ。 他の依頼は全て解決しているのに、私だけ解決していないとかおかしいじゃない!!」
それには何も言えなかった。 ただ思乃が探偵部へ入る以前の問題でもある。
「しかも依頼の事件を揉み消したって? 私に嫌がらせをしていた犯人と探偵部の部長の仲がいいから!? 何よそれ!!」
「・・・」
「そんなの有り得ない。 探偵として終わっているわ! お金を受け取っていなくとも依頼を受けた以上、探偵ごっこでは済まされない。 たとえ部活でも依頼をしに行く人は本当に困っているんだから!!」
先程、冗談で想太に言った言葉が思い返された。 元々本気でやっていることだが、改めて他人の口から聞かされると考えたいた以上に重い。
「事件を揉み消したくせに探偵部は続いた。 だからこの学校を卒業してしまう前に、私の手で終わらせてやろうと思ったのよ」
「貴女が一ノ瀬さんを脅して美鈴さんを隠してもらった。 そうね?」
「・・・そうよ」
「一ノ瀬さんのお姉さんは二年前の当時の探偵部部長だった。 『私は昔貴女の姉に酷い目に遭わされたの。 お姉さんの評価を下げたくないなら私の言うことを聞いて。 そうしたら大っぴらにはしない』
とか言って脅したのよね?」
「・・・そんなところね」
「それで自分の手は汚れないとでも思ったの?」
「別にいいじゃないッ!!」
「どうして美鈴さんを選んだの?」
「それは誰でもよかった。 影が薄い生徒なら誰でも!!」
「そんな酷い理由で・・・」
「人が行方不明になって一大事になったら流石の探偵でも手に負えない。 先生に目を付けられて探偵部も終わると思ったのにッ・・・!」
本当に美鈴は無関係で友達がおらず、いなくなっても怪しまれにくい生徒だからという理由だけで選んだらしい。 だが実際はそうではなく、生徒がいなくなれば騒ぎにもなるし先生たちも捜索する。
だからといって今更美鈴が体育館倉庫にいるとも言えずどうしようかと思っていたようだ。
―――ここを見つけた時、あの喜び方は演技ではなかったということなのね。
―――本当は心配で、怖かったんでしょうに。
「・・・思乃さん、これからどうしますか?」
想太が聞いてきた。
「先生に話しましょう。 一応一ノ瀬さんも共犯者だから」
「思乃さん、それなんですが。 この件を内密にするわけにはいかないですかね・・・?」
「でも先生方も捜索しているし、もう少しで警察沙汰という状況を内密に済ますのは難しいんじゃないかしら? それに美鈴さんは完全な被害者なのよ?」
「まぁ、確かにその通りですね・・・」
「正直想太の言いたいことは分かるわ。 だけどやっぱり踏み越えてはいけない一線ってあると思うのよ」
想太は納得するよう頷いた。
「探偵部に恨みがあるのならもっと他にやりようがあった。 少なくとも無関係な人を巻き込んだことは絶対に許されない」
思乃の言葉に相原が大きく頭を下げた。
「美鈴さん! 本当にごめんなさい!!」
「あ、あの・・・」
「本当に何の私怨もなくて、貴女ならもしかしたら許してくれるかもしれないなんて邪なことを思っていた。 でもそれは間違いだった」
「あの・・・」
「?」
「実は私・・・。 その事件に無関係じゃないんです!」
「「「・・・えぇッ!?」」」
美鈴の言葉に一同が驚いた。
「どういうこと? もっと詳しく!!」
「あ、はい。 でもその前にトイレへ行ってもいいですか・・・? もう我慢の限界で・・・」
「え、えぇ。 どうぞ」
何となく場が白けた気もするが、戻ってきた美鈴の懺悔が始まれば皆真剣に耳を傾けていた。
「二年前、相原さんの体操服をボロボロにしたのは私なんです・・・」
「え・・・!?」
美鈴は二年前、相原の体操服に誤って缶コーヒーを零してしまった。 気の小さい美鈴にとって、クラスの中心として存在していた相原の体操服を汚してしまったことは罪悪感以上に恐怖が勝った。
慌てて体操服を洗ったのだが、その際に使用した洗剤がよくなかったのだ。 ボロボロになった体操服を見て、そのままにはできないと考えた。
そして隠しておいて後で燃やして証拠隠滅しようと思っていたら、偶然見つかってしまったという。
「私があの時ちゃんと謝っていればよかったんです。 ・・・だけど、できなかった」
その缶コーヒーは加害者だと思われた生徒のものだった。 全て隠蔽しようとしたが、失敗し残されていた僅かな缶コーヒーの匂いから犯人と疑われたのだ。
缶コーヒーを学校に持ってくる人間なんてなかなかいない。
「実は一ノ瀬さんのお姉さんは私がやったことに気付いていたんです。 気付いて秘密にしておいてくれた。 ・・・だけどそれがこういう結果に繋がってしまいました」
「そうだったの・・・」
真相を知った相原が複雑な表情をしている。
「ごめんなさい、相原さん。 あの時は怖くて、でも時が経つにつれ相原さんがいい人だと分かって」
「こんな事件を起こした私がいい人って酷い話ね。 ・・・私の方こそ本当にごめんなさい」
二人は握手して仲直りし、どうやらこれで一件落着したようだった。
「あとのことは三人に任せましょう。 探偵としての仕事はここまでだから」
「そうですね」
こうして長い探偵部の一日は幕を閉じたのだ。
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