連想推理探偵部⑤




三限目の授業中、思乃は辿り着いた答えに向け思考を整理していた。 真相は分かっても、少しばかりそれを事実として公表するには気が引けるものがあったのだ。

そして、授業が終わりいつものように想太がやってきた。


「じゃあ、これから僕は相原さんと一緒に美鈴さん捜しを・・・」

「それはちょっと待って」

「? 何か分かったんですか?」

「えぇ。 浮気調査という名の本当の事件の真実をね」

「本当ですか!? ・・・というか、何か意味深な言い回しですね?」

「とりあえず佐々江さんと浪川くんを連れてきましょう。 話はそれからよ」


そうして部室に思乃と想太、相原と佐々江と浪川が集まった。 浪川は何故呼ばれたか分からないと言った風に首を傾げてはいたが、それでも想太が頼んだことで快くやってきてくれた。

相原はこの件には無関係であるため退屈そうにそっぽを向いている。


「えっと・・・。 貴女は誰ですか?」


恐る恐る浪川は尋ねてきた。


「そう言えば、さっきも俺の教室の前にいたような・・・」

「そう。 この方は探偵部の部長さんよ!」

「探偵部? あぁ、だから看板に・・・」


探偵部は知る人は知るが、活動規模が小さいため知らない人は知らないのだ。


「申し遅れました。 この学校で探偵部の部長を務めさせてもらっています、思乃です」

「はぁ・・・。 確かに昇降口にそれっぽい箱があったような・・・?」


―――見た目はいいようだけど探偵部を知らないだなんて!

―――知識面では猿にも劣る・・・ッ!!


思乃は受けたショックを内心毒づくことで緩和した。


「それでは本題に入りますね。 浪川くんのことを少しの間監視させてもらいました」

「監視? どうしてですか?」

「佐々江さんから浪川くんが浮気をしているかもしれないという相談が来たのです」

「浮気ぃ・・・ッ!?」


浪川は明らかに動揺していた。 だがその動揺は浮気が見つかり反応をしたということではないと分かっている。


「えぇ。 彼女から、浮気調査として依頼を受けました」

「ど、どういうことですか!? 俺は別に浮気なんて!」

「分かっています。 ・・・佐々江さん」

「はい?」


思乃は佐々江を見て核心的な質問をした。


「佐々江さんは本当に浪川くんと付き合っているのですか?」

「はぁ!?」


思乃の言葉に著しく反応したのは浪川だった。 それに佐々江は大きな声で肯定する。


「はい! 付き合っています!! 相思相愛です!!」

「何を言ってんだよ!? 俺と佐々江さんが付き合っているだなんて悪い冗談が過ぎる!!」


ほぼ同時の言葉に想太は首を傾げていた。


「・・・二人の意見が一致していませんが、どういうことですか?」

「つまり佐々江さんは浪川くんと付き合っていると、ただ勘違いをしていたということよ」

「勘違い!?」


それを聞いた佐々江は普通に驚いた顔をしていた。


「えぇ!? 私たち付き合っていますよ!! ねぇ、浪川くん!?」

「いや、付き合っていないって!! 寧ろ避けているくらいで・・・!」

「今更何よ! いつも私に優しくしてくれるじゃない!! この前は落ちた消しゴムを拾ってくれたし! 授業中に目が合うこともあったわ!! 浪川くんも私のことを見ていたという証拠でしょ!?」

「クラス全体を満遍なく見ていただけだよ・・・」

「それでたまたま目が合っただけって言うの!? 大分無理があるわ!!」


二人の言い合いはヒートアップしていく。 聞いていると本当に些細なことが積み重なり佐々江はそう思い込んだということらしい。

ただ自分に気があると思い込むならともかくとして、付き合っていると勘違いするのはある意味才能なのではないかと思う想太であった。 とりあえずこれで探偵部として依頼は終わり。

実際に二人は付き合っていないため浮気調査自体が成り立たないのだ。


「悪いんだけど、抱えている事件があるからお二人はお引き取りしてもらえる?」

「こんな状態で投げるんですか!?」

「浪川くぅ~ん! いい機会だから、このまま付き合っちゃいましょうよぉ~!」


もう開き直ったのか佐々江は浪川の腕にしがみ付いている。 強引に引き剥がそうとはしているが、女子ということもありあまり手荒なことはできないようだ。


「もし依頼という形を取るなら探偵部として協力できることはあるのかもしれないわ。 ただ私たちは別れさせ屋ではないから、まずは自身で解決を図ってみたらどうかしら?」

「・・・分かりました」

「ちなみに佐々江さん、そんなことじゃ浪川くんは振り向いてくれないわよ? いい男は追われることに慣れているから、追わせてみるのも手かもしれないわね」

「なるほど・・・」

「浪川くんも八方美人はトラブルの元ということを憶えておくといいわ。 まぁ、誰にでも冷たいよりも誰しもに温かい人の方が私は好きだけどね」

「ッ・・・」

「とりあえず、想太。 二人に帰ってもらって」

「あ、はい。 浪川くん、突然呼び出してこんな感じで申し訳ないんですけど・・・」

「あぁ、いいですよ。 また何かあったら頼みます」


そんな感じで浪川は爽やかに手を挙げ去っていった。 人気があるのも分かるなとしみじみ実感する想太である。 二人が出ていったのを確認し、相原はこの結果に溜め息をついていた。


「くだらないわね」

「真実というものは時にくだらないものなのよ」

「それで? 私の依頼はどうなっているの?」

「こちらに解決の目途が付いたから私も美鈴さんを捜させていただくわ。 昼休みから、ということになるかしらね」


その言葉に相原は首を横に振った。


「悪いんだけど、昼休みは私委員会があって捜すのを手伝えないの」

「じゃあ私たちで捜させていただくわ。 幸い想太が美鈴さんを分かっているようだから」

「そうしてちょうだい」


相原はそう言うとこの場を去っていった。 想太が言う。


「これで浮気調査は一件落着・・・?」

「まぁ、一応は? 浮気調査はしたからね。 浪川くんがお客さんになった時にどうするのか、念のためシミュレーションしておかないといけないわ」


そこまで話したところで佐々江が探偵部へ戻ってきて話に割り込んできた。


「ちょっと待ってください!! やっぱりもう一度依頼します! 私と浪川くんの仲を取り持ってください!!」


息を深く吐いて思乃は言う。


「いい? 佐々江さん。 私が受けた依頼は浪川くんの浮気調査だった。 そしてそれは浮気はしていないということでケリが付いたはずよ?」

「それはそうですが・・・」

「二人の仲が今後どうなるのかというのは、私たち探偵部の仕事には含まれていないわ」

「そんな・・・」

「もし付き合うことになって浮気を疑うような日が来るなら、もう一度探偵部の門を叩きなさい」

「・・・ッ、分かりました!!」

「よしッ! これにて一件落着ぅー!」


思乃は大きく手を叩いてそう言った。 想太は細かい拍手をする。


「流石思乃さん! よく突き止めましたね!!」

「ゲームのような感覚で考えを繋げていけばすぐ解決に繋がるわよ」


―――さて、次は美鈴さんね・・・。

―――美鈴さんがどういう方なのかは分からないけど、そもそも美鈴さんって相原さんと仲のいいグループに入っていたかしら?

―――相原さんはよくグループで行動しているから目立つ。

―――そのグループ内の人の名前はよく聞くから皆分かるけど、美鈴という名前はいなかったような・・・?



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