連想推理探偵部⑥




昼休みとなり昼食を終えた思乃と想太は部室に集合していた。 手分けする必要はなくなったため、人探しの依頼に集中できる。


「じゃあ次は相原さんの依頼で美鈴さんの捜索ね」

「そうですね」

「想太のクラスでは今どうなっているの? 人一人いなくなって騒ぎになっていないの?」

「もちろんなっていますよ? 先生も既に捜し回っていると思います」

「なるほどね。 まぁ、当然と言えば当然よね」

「警察に届を出される前に早いところ見つけてしまいましょう。 あ、そう言えば僕――――」


話ながら部室を出ようとしたその時だった。


「あ、あの!」


扉を開けるとそこには一人の女子生徒がいた。 人見知りなのかしきりに瞳を動かしている。


「どうしたの?」


尋ねると彼女はおどおどしながら言った。


「い、今ここやっていますか・・・? 探偵さんにお願いしたいことがあるんですが・・・」

「えぇ、構わないわ!」


迷うことなく即答したのを見て想太が怪訝な目を向けた。


「え、思乃さんいいんですか? 美鈴さんの件は一刻を争うかもしれないので、早く片付けた方が・・・」

「先生たちも捜していて見つからないのなら、簡単に見つかるはずがないわ。 それに新しい依頼者が急いでいない保証はない。 丁度一つ依頼が片付いたのだから入れ替えないと!」

「そうですが・・・」

「そうなると放っておくわけにもいかないでしょう! さぁさぁ、入って入って!!」


そう言って女子生徒を部室の中へと連れ込んだ。 他の生徒と同様依頼用用紙に記入してもらう。 彼女は同じ三年生で思乃と想太とは別のクラスのようだ。 名は一ノ瀬という。

そして思乃にはその名字に見覚えがあった。


―――一ノ瀬・・・。

―――かつての部長と漢字も含め同じ苗字ね。

―――とはいえ一ノ瀬という苗字はそれなりに一般的。

―――これは偶然かしらね?


所属するクラスを見ても気付くことがあった。


「あら。 相原さんと同じクラスなのね」

「はい・・・」

「依頼内容は・・・。 ストーカー!?」


叫んだ声が大きかったためか想太も驚いていた。


「ストーカーされているって大事じゃない!?」

「あ、はい・・・。 といっても今日の午前中からなんですけど、ずっとどこかから視線を感じていて・・・」

「今日の午前中からっていうことは、今までストーカーをされていたわけではないの?」

「あ、はい。 今日の午前中からストーカーされているようなんです」

「なるほど。 だから今うちに来たということね」


本当にストーカーなら警察沙汰である。 ただ学校で起きていることなら事件が起きる前に警察が動く可能性は低い。 それに彼女は警察に相談できる放課後より昼休みの今相談したかったということなのだ。

思乃の言葉に想太が首を傾げているのは、思乃程考えが至らなかったということになる。


「何がなるほどなんですか?」

「何日もストーキングしたり実際に被害に遭っているなら、警察を頼る方がいいでしょう?」

「あぁ、確かに・・・」

「警察は何か事件がない限り動いてくれないからね。 でもうちの探偵部は違う! たとえ事件が起きていなくても犯人を捕まえてみせるわ!!」


思乃は目を燃え上がらせて拳を握り締めていた。


「事件が起きていなかったら犯人がいないじゃないですか・・・。 それより、もう一つの依頼の件はどうするんですか?」

「そうね・・・。 それはまた想太が担当してくれる?」

「僕ですか? まぁ、いいですけど」

「大人数で行動するとバレる可能性があるからね。 ストーカーの件は私だけで十分よ」

「じゃあ、一ノ瀬さんにはしっかり部長が付いてくれるということですね?」

「当然そうなるわね」

「では早速美鈴さん捜しへいってきます!」

「えぇ、頼んだわ」


想太が去り際に一ノ瀬に視線を向けたことが気になった。 ただ何も言わずに去っていったため追及することもしなかった。


「そう言えば、一ノ瀬さんは今日一日美鈴さんを見ていないかしら?」


一ノ瀬は考えた後に言った。


「美鈴さんですか・・・。 そう言えば確かに見かけていないような・・・?」

「やっぱりそうなのね・・・。 仕方ないわ。 では早速参りましょう」

「どこへですか?」

「廊下よ。 普通に廊下を歩いてくれるだけでいいの。 とりあえず現場を抑えるしかないからね」

「その時にストーカーさんを突き止めてくれるんですか?」

「えぇ、そのつもりよ」

「分かりました・・・」

「怖いかもしれないけど、私が何とかするからね」


ストーカーを突き止めるには現行犯で逮捕するのが手っ取り早いと思ったのだ。 二重尾行のようにしていれば、ストーカーを見つけることができる可能性は高い。

しかし昼休みが終わるギリギリまで歩き回ってもストーカーが現れることはなかった。


「今はチラリと視線を感じることすらありませんでした」


この結果に思乃は少しばかり反省していた。


「私が監視していることがバレていたのかもしれない。 ついうっかり探偵部の部員募集中のたすきをかけたままだったから・・・」

「えぇ!? さり気なく勧誘活動していたんですか? それは目立ち過ぎますね・・・」

「ま、まだ時間はあるわ! 五限目が終わったらまた同じことを試しましょう」

「はい」


そう言って一ノ瀬と別れた。


―――ああは言ったものの、私は一ノ瀬さんとはかなりの距離を取っていた。

―――なのにストーカーの影も形も見当たらなかったのはおかしい。

―――昼休みなんてストーキングするのに絶好のタイミングだというのに・・・。


この先は得意の連想推理をしても分からなかった。 まだ情報が足りていないということだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る