連想推理探偵部⑦




五限目が終了し、思乃は再び一ノ瀬のもとへと向かおうとした。 一ノ瀬の件に関しては自身の迂闊な行動のせいか手がかりすら掴めていない。

それを反省し部員募集のたすきを綺麗に折りたたみポケットにしまった。 その時想太がやってくる。


「ストーカーの依頼はまだ解決していませんか?」

「えぇ。 これからまた調査をするから相原さんの依頼はまたお願いできる?」

「任せてください」

「それで、肝心の相原さんはどこへ行ったの?」

「今から迎えに行きますよ。 それではまた!」


想太の足取りが何となく軽いことが気になった。 ただその理由は考えても分からない。


「ちょっと待って」

「え、まだ何かありましたか?」

「相原さんは怒るかもしれないけど、今度はこれを付けて捜索してほしいのよ」

「部員募集のたすきですか」

「えぇ」


取り出したたすきを丁寧に想太に手渡した。 たすきはつい先日部長である思乃自ら作ったもので替えがない。 手作りであるため愛着も強く、手荒に扱いたくなかったのだ。


「じゃあ、行ってきますね!」


想太はたすきを伸ばしてかけると颯爽と捜索に向かっていった。


―――じゃあ、私も行こうかしらね。


一ノ瀬は思乃が来るのを待っていたようで、教室の前へ出て待機していた。


「遅れちゃって悪かったわね。 では参りましょうか」

「はい」


先程と同じように一ノ瀬には廊下を適当に歩いてもらう。 そのかなり後ろから思乃は尾行していた。


―――おかしいわね・・・。

―――やはりストーカーは現れない。

―――その現れない原因は?

―――・・・もしかして一ノ瀬さんが探偵部に依頼したことを知っているから?

―――だから身を隠したの?

―――あら、でもそうすると犯人は一体・・・。


少し歩いてもらったが、ストーカーはやはり現れなかった。


「どうですか・・・?」

「駄目ね。 ストーカーらしき人は影も形も見つからなかったわ」

「そうですか・・・。 で、でも! 私がストーカーされていたのは本当で!」

「疑っているわけじゃないのよ。 ただ今日が初めてということだったし、そこに何かの意味があるのかもしれないと思ってね」


―――依頼者を疑うようになったら終わりよね。

―――たださっきの佐々江さんのようなこともあるし慎重に進めないと。

―――それでもストーカーが現れてくれないと何も手がかりが・・・。

―――流石に何のヒントもなければ得意の連想推理も無理ね。


「ねぇ、一ノ瀬さん。 何か些細なことでもいいからストーカーに繋がる手がかりはないかしら? 例えば香水が香ったとか・・・」


一ノ瀬はしばらく考え思い出したようにスマートフォンを取り出した。


「あ、えぇっと・・・」

「?」

「しゃ、写真を撮ったんです! ただ見せても手がかりにはならないと思って」

「見てみないと何とも言えないわね。 見せてくれる?」


スマートフォンで写真を見せてもらった。


「これはッ・・・!」


そこに写っているものを見て驚くことになる。


「これは本当にストーカーに向けて撮ったものなのね!?」

「はい。 あまりにも酷い写真過ぎて手がかりに繋がらないと思ったんです・・・。 多分ストーカーの顔の部分だと思うんですけど、これだけピンボケしていたら誰か分からないですよね」


確かに一ノ瀬の撮った写真に写っていたのは、水彩絵の具の肌色と黒色を適当にぶちまけたように誰かは全く分からない人影が写っているだけだった。

首から上しか映っていないことから、性別すら判別することもできないだろう。 しかし、それは思乃以外が見た場合の話である。 思乃にとってこの写真はどこか見覚えがあるものだったのだ。


「大手柄よ! 一ノ瀬さんッ!!」

「え・・・?」


写真の角度やタイミングが悪いのは移動しながらこっそり撮ったものだろうから仕方がない。 しかし、これがストーカーに向けられた写真というのなら話は変わってくる。

写真から得られたのはもっと決定的な情報だったのだ。


―――このひょっとこも裸足で逃げ出すような引き延ばされた顔!

―――すなわち絶望的な写真写りの悪さ!

―――これはもう完全にアイツじゃないッ!!

―――連想するまでもないわ。

―――だってこの世にこんなに写真写りの悪い人が他にもいたら、カメラメーカーは廃業しなくてはならないもの!

―――・・・そう言えば、昼休みの時。


思乃は先程のことを思い出した。


『警察に届けを出される前に早いところ見つけてしまいましょう。 そう言えば僕――――』


―――何かを言いかけていたわね。

―――その後すぐに新たな依頼が入ったから聞くことを忘れていたけど・・・。

―――何か重要なことを言おうとしていたのかしら?


このストーカー事件は今日の朝から行われている。 つまり彼が日常的にストーカーしていたわけではなかったということだ。


―――そうなると彼が一ノ瀬さんを尾行していたのは何故?

―――もし今日突然可愛い子を見つけたからストーキングを始めたという理由なら、リアルでもひょっとこにしないといけないところだけど・・・。


チラリと一ノ瀬を怪しむように見る。


「・・・どうなさいました?」

「いえ・・・。 一ノ瀬さんって可愛いなと思って」

「えぇ!? 突然ですね・・・。 ありがとうございます。 それで犯人は分かったんですか?」

「写真を見たらすぐに分かったわ。 ただ・・・」

「本当ですか!? 誰なんですか!? 教えてください!!」


思乃は言いにくそうに彼の名を口にした。


「・・・想太よ」



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