連想推理探偵部③




友達が少なくても同級生の顔くらいは何となく分かる。 なのに見慣れないということは他学年の女生徒なのだろう。 それを証明するかのように首元のネクタイが薄緑に煌めいていた。


「どうしたの?」

「調べてほしいことがあるんですぅ!! 大至急依頼してもいいですかぁ!?」

「えぇ! もちろんいいわよ!!」


依頼という言葉を聞くや否や思乃は彼女に接近し手を取った。 恵比須様のような満面の笑みに相原が思わず抗議した。


「ちょっと! 私の方が先に頼んだのよ!?」

「えぇ、当然分かっているわ! どうやら依頼が舞い込んで舞い上がってしまったようね。 ここ最近依頼がない日も多かったから」

「とにかく先に頼んだのは私なんだから私を優先しなさいよ!」

「心配しないで」

「・・・何か策でもあるの?」

「ええ。 同時進行でいくわ!!」

「はぁ!?」

「貴女の目は節穴なの? うちの部員の数なら二つの依頼を同時にこなすくらいお茶の子さいさい! 一つでも二つでも完璧に遂行してみせるわ!!」

「部員の数はぴったり二人なんですけどね・・・」


思乃の恍惚に染まる表情を見ながら想太は小さく漏らした。


「じゃあ貴女も用紙に記入してくれるかしら?」


今来た彼女は二年生であることはネクタイが証明している。 ただそれ以外は性別くらいしか分からないのだ。


「これでいいですか・・・?」


そう言って手渡してきた用紙を思乃と想太は見る。 彼女の名前は佐々江莉奈(ササエリナ)というらしい。


「依頼内容は浮気調査ね」

「わぁ、本物の探偵っぽいですね。 今回は彼女の趣味を当てたりとかはないんですか?」

「・・・え?」


想太の期待を込めた眼差しに思乃は少々固まった。


「さっきの思乃さんがカッコ良くてもう一回見たいと期待しているんですけど」

「あ、確かに! さっきのドラマの探偵っぽくて凄かったわよ」


相原も想太にそう乗っかり逃げ道がない。


「そ、そうなの? えぇと、そうね・・・。 趣味は占い・・・?」

「占いですか? 合っていますか? 佐々江さん」

「確かに占い大好きです! どうして分かったんですか!? 凄い・・・ッ!」

「女の子の趣味なんて占いかウィンドウショッピングって言っていれば大抵当たるのよ! 二分の一!! とにかく依頼の話をするわよ!!」

「え、えぇ・・・」


先程の見事な推理とは裏腹に、途端に信頼度を落とす残念部長である。 


「えぇと、同じクラスの浪川(ナミカワ)くんと付き合っているのですがどうやら浮気されたみたいです。 最近私への態度が素っ気なくて辛いです。 本当に浮気しているのかどうか確かめてください」

「やっぱり浮気調査は本物の探偵っぽいですね!」

「想太はこっちの依頼の方が楽しそうね? どっちを担当したい?」

「うーん。 迷いますがやはり女子の浮気調査依頼ということなので、部長がそっちを担当した方がいいんじゃないですか?」

「じゃあ人探しは任すわね。 一応、どちらの依頼も気にかけながらこなすから」


それを聞いていた相原が不満気に口を挟む。


「何か大変そうに思えるけど、本当に両立できるのでしょうね?」

「もしできなかったら左の手の平で左手首を掴んでみせるわ!!」


自信満々な思乃の言葉に相原は首を傾げていた。


「え、そんなことできるの? 逆に依頼失敗した方が面白いものを見れそうな気がするわね・・・」

「それはどうかしら? とりあえずこの二つの依頼は私たち探偵部にお任せあれッ!」

「まぁ、期待し過ぎない程度に期待しているから」


こうして同時進行することに決まった。 思乃が浮気調査をしている間、想太には近くで美鈴を探してもらう分担となった。 朝のホームルームが始まる前に一度浪川の様子を見に行くことにする。

今のところは二人一緒に行動中だ。


「そう言えば、美鈴さんって本当にこの校内にいるんですか?」

「さっき捜した時はいないと言っていたわね。 そうなるともしかしたら外なのかもしれないわ」

「学校の敷地内だったら大丈夫ですが、敷地外だったら流石に捜しにいけませんよ?」

「分かっているわ。 そう言えば想太は美鈴さんの容姿は分かるの?」

「はい。 僕と同じクラスですから」

「あら、そうだったのね。 話したことは・・・。 って、ごめんなさい。 聞いてはいけないことだったわ」

「はは・・・」


話している間に浪川のいるクラスへと着いた。 この近くを想太と相原は捜しにいく。


「浪川くんは彼です」


その間に思乃は佐々江に浪川のことを教えてもらった。 彼は確かにモテそうで清潔感がある印象だ。 今は複数の男子と一緒に談笑しているようだ。


「いい感じの男子じゃない」

「浪川くんは私のものですよ? 取っちゃ駄目です!」

「分かっているわよ。 誰もそんなことは言っていないから」


しばらく時間が許すまで浪川の様子を見ていたが、同性と絡んでばかりで浮気をしているようには一切見えなかった。


「本当に浮気しているの?」

「していますよ! こんな短時間で浮気はしていないと決め付けないでくれますか!? それに異性とだけが浮気というわけじゃないと思いますけど!!」

「それもそうね・・・。 でも今は特別に収穫はなさそうかしら。 また休み時間になったらここへ調査しに来るわ」

「分かりました! 待っていますね」


そろそろ時間だと思ったのか想太と相原も戻ってきた。


「美鈴さんの方はどう?」

「この近くにはいませんでした」

「そう・・・。 でもまだ今日は始まったばかり。 調査はこれからよ!」

「はい!!」


この時相原は思乃と想太を怪しむような目で見つめていた。



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