連想推理探偵部②
やってきたのは三年生で思乃と別のクラスの相原(サガラ)という女子生徒だった。 同学年ではあるが、ほとんど話したことのない相手だ。
「え? もしかして依頼を頼みに来たお客さん!?」
「そのために来たんだけど・・・?」
「あらあら、ごめんあそばせ! ささッ、お客様! そちらにお座りになって? ほら想太、お客様に紅茶とスモークチーズをお出しして!!」
「そんなものありませんよ・・・」
久々の依頼に飛び回る思乃。 それに相原は困惑していた。
「別に何もいらないわよ。 それで依頼を受けてくれるの? くれないの?」
「当然受けるわ!!」
「なら最初からそう言いなさいよ・・・。 依頼はこれに書いて入れればいいわけ?」
「いいえ! 今は依頼を何も受け持っていないから、これを書きながら細かいところは口頭で教えてくれれば大丈夫よ!」
依頼箱に近付く相原を引き止め小さな用紙を渡した。 そこに氏名と学年とクラス、依頼内容を簡単に書いてもらう。
「これでいい?」
用紙を受け取り想太と確認する。
「相原彩夢(サガラアヤメ)。 三年A組。 そして趣味は犬の散歩ね」
そう言うと相原は素直に驚いた顔をする。
「え? 趣味の欄なんてなかったのにどうして分かったの?」
「そりゃあ分かるわよ。 貴女の左手の平に付いた細い線の痕。 鞄にしては細過ぎるでしょう?」
そう言うと相原は慌てて自分の左手を見る。
「にもかかわらずこの時間まで跡が残っているということは、朝学校へ行く前に犬の散歩でもしていないと説明がつかないのよ」
相原はなおも驚いた顔で思乃を見ていた。
「朝学校へ行く前に散歩なんて余程好きじゃないと無理ね。 だから犬の散歩が趣味だと推理したわけ」
「へぇ・・・。 ちょっとは期待できそうね」
これには想太も感心していた。 想太は相原の掌なんて全く見ていなかったためだ。
「それで内容は人探しね。 今日一緒に登校するはずの美鈴(ミスズ)が行方不明だから捜してほしい・・・!?」
人一人いなくなったのなら、学校の探偵部で受け持つには重過ぎる依頼だ。 しかし冷静になって聞いてみた。
「これって、単純に体調不良で学校を休んでいるのでは?」
「もちろん私が行方不明だと考えたのには根拠があるの」
「なるほど。 美鈴さんの家には既に連絡済みということね」
「えぇ、そうよ。 美鈴のお母さんに確認したけど『美鈴はもう家を出た』って言うの」
「それで待ち合わせにも来ない。 学校にも来ないとなると、確かにおかしいわね」
「そうでしょ? 学校も探したけど美鈴の姿はないの。 靴箱を見てもまだ来ていなかったわ。 登校中に美鈴を追い越したこともないからおかしいと思ったの」
相原の言葉が本当ならすぐに親御さんや先生に連絡を入れるべきだと想太は思っていた。 ただ大事にして大したことがなかったら探偵部としての名声が更に落ちてしまう。
部長の思乃が自力解決を目指すというのなら想太は従うしかないのだ。
「なるほど。 それでここへ依頼をしに来たのね」
「そうよ。 流石に放課後までに見つからなかったら警察へ行こうと思うわ。 でもまだちょっとした勘違いや行き違いかもしれないし、そんなに大事にはしたくなくて」
「大切な友達が見当たらないとなると確かに心配よね・・・。 分かったわ。 この依頼は探偵部部員一万人が責任を持って引き受けるわ!!」
「え? そんなに大勢部員がいるの?」
想太は小声で伝える。
「いるわけがないですよ! 言わせておいてあげてください。 寂しい人なんです」
「誰が寂しい人よ!!」
「ひぃぃッ! 地獄耳・・・」
二人の会話に相原は引いている。
「ま、まぁいいわ。 頼んだからね」
「それで細かいことを聞きたいんだけど、その美鈴さんってどういう方?」
「はぁ!? 貴女は私と美鈴と同じ学年でしょ? どうして二年間もずっと一緒にいて分からないの!?」
「も、もちろん美鈴さんのことはよーく知っているわ! だけどそうじゃなくて、相原さんの口から彼女がどういう人なのかを聞きたいのよ!」
「嘘だー。 しれっと嘘を言ったー・・・」
想太は小さく呟いた。 思乃には想太くらいしか友達がいないのだ。
ただその機転の利かせ方は流石だと思うし、思乃は変人だが容姿もよくて賑やかなため何故友達ができないのかと想太は不思議に思っていた。
「確かに言いたいことは分かったわ」
「ふぅ。 上手く誤魔化せた・・・」
「・・・口から洩れているわよ、本音が」
教室で孤立している思乃は基本的に部室で過ごしていたため同学年の生徒を把握し切れていなかった。 ちなみにであるが想太も友達が多い方ではない。
「仕方ないわね。 時間がある限り私も一緒に捜すわ」
「あら。 別に美鈴さんのことを詳しく聞かせてくれたらそれでいいのよ?」
「私も気になっているしその方が早いでしょ」
「ふぅん・・・」
その時思乃は相原のことをつま先からてっぺんまでジロリと観察した。 想太はそれを見てその意味が何かは分からないが何も意味がないとも思えなかった。 だがその疑問は次の瞬間霧散する。
「探偵さぁん! 助けてくださぁい!!」
突然扉が開き更に一人の女子生徒が泣きながら飛び込んできたのだ。
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