第6回 「労働基準監督官の赤座女史だ。労基のレッドサーペント、真紅の毒蛇と恐れられる実力者だよ」

 創作者の皆さんは、自作の登場人物のフルネームを、脇役に至るまで事細かに設定するタイプでしょうか。それとも、名字のみ・下の名前のみの設定にとどめることを厭わないタイプでしょうか。

 私は後者のタイプなので、板野作品には、名字か下の名前のみしか出てこないキャラクターが多く登場します。読者の認知リソースをなるべく侵襲したくない(覚える必要のないことは覚えなくてよい)という考えに基づいてのことでもあります。


 例えば、今回のタイトルに掲げた、『ブラック企業をぶちのめせ!』(https://kakuyomu.jp/works/16816700428483728427)の赤座あかざ女史。彼女は作中で名字しか出てきません。彼女を下の名前で呼ぶキャラがいないので、設定する必要がないのです。

 同様に、イソ弁の青梅おうめ氏も名字のみですし、事務員のおばさんもミドリさんとしか呼ばれません(もしかしたら下の名前ではなく、名字かあだ名なのかもしれません)。

 脇役の名前を細かく書いても読者に負担をかけるだけ、と私は個人的に思っているのですが、勿論、読者さんの中には、ちゃんとフルネームが書いてあるほうが好きな方もいるでしょうから、こればかりは好みの話でしかありません。


 しかし、この赤座女史に関しては、後に私の主催する「カクヨムヒロイン総選挙」にエントリーさせるにあたり、やはりフルネームがあったほうがいいかと思い直し、「赤座透子とうこ」と命名することにしました。

 フルネームの設定がなくてもエントリーは可能だったのですが、そのほうが収まりがいいと思ったためです。

 この名前は、切れ者の女傑というイメージから、『仮面ライダーアギト』で小沢おざわ澄子すみこを演じられた藤田ふじた瞳子とうこさんから音を頂きました。


 同じく、「カクヨムヒロイン総選挙」のエントリーに際してフルネームを設定したキャラには、『48million外伝 ~永遠のアイドル~』(https://kakuyomu.jp/works/16816700428482664020/episodes/16816700428482866999)の語り手・かえでがいます。彼女は作中では下の名前しか出ないのですが、エントリーにあたって「市川いちかわ楓」としました。

 作中でも少し触れているように、彼女の名前の「楓」は、本シリーズで語られる「伝説のアイドル・レナ」のモデルである松井まつい玲奈れながドラマ『ニーチェ先生』で演じていた塩山しおやまかえでから取っています。ならば名字も同様にするか、ということで、ドラマ『初恋芸人』で彼女が扮した市川いちかわ理沙りさから取りました。


 他に、後付けでフルネームを設定したキャラといえば、『IDOLIZE -アイドライズ-』(https://kakuyomu.jp/works/16816700428506924603)に登場する、高校生作家・桐山きりやま和希かずきの担当編集の北村きたむら氏がいます。オネエ口調で話すゲイの男性です。

 彼の下の名前は作中では出ませんが、後に本作のキャラクター達の個別イラスト(https://kakuyomu.jp/users/itano_or_banno/news/16816700428579351382)を公開するにあたり、フルネームを「北村雅美まさみ」と設定しました。

 この名前は、作家仲間のグループDM内で案を募り、ミレイちゃんのTOトップオタとして知られたF氏からアイデアを頂いたものでした。キャラの性的パーソナリティとリンクしつつ、教養高い出自をも彷彿とさせる、良い名前を頂いたと思います。


 ちなみに、「北村」という名字がどこから来たかというと……。

 まず、桐山和希というキャラは、渡辺わたなべ麻友まゆをモデルとする羽生はにゅうマユの息子であることから、彼女の主演ドラマ『サヨナラ、えなりくん』の桐山さおりから名字を取り、同作のキーパーソンのえなりかずき氏から下の名前を取りました。

 そして、その和希の担当編集ということで、北村氏もまた、渡辺麻友が『戦う!書店ガール』で演じた北村きたむら亜紀あきから命名したというわけです。この手の命名が本当に多いのですよね……。


 余談ですが、後付けではないものの、同じくF氏に名前を付けてもらったキャラとして、『レッドに恋しちゃダメですか!? ~幻獣戦団アニマライザー~』(https://kakuyomu.jp/works/16816700428531046498)のイエローライザーこと相馬そうま光璃ひかりがいます。

 同作は戦隊モノのパロディなので、きわめて戦隊チックに、メンバーの名字にはモチーフの幻獣を表す字、下の名前には担当カラーや属性を彷彿とさせる字を入れています。ピンクの咲良さくら、レッドのほむらは勿論として、ブルーの疾人はやと、グリーンの大地だいちまではスムーズに決まったのですが、イエローの女性だけイマイチいい名前が出てこず、グループDMで相談していたわけです。

 確か、F氏は「光(ひかる、又は、ひかり)」という名前を提案してくれたのですが、「光」だけだと地の文で一般名詞とややこしくなるので、一文字加えて「光璃」にしたのだったと思います。なるべくなら、キャラ名は、ひと目見て人名とわかる字面にしたいものです。


 変わったところでは、名前自体を後から変更したキャラもいます。『変身ヒーローの掟』(https://kakuyomu.jp/works/16816700428483939191)の「超科学の掟」の回に登場する「ナエル」がそうです。

 本作は特撮ヒーローを題材としたコメディ短編であり、この回は『仮面ライダーゴースト』のパロディなのですが、『ゴースト』のタケルをもじった本話のヒーローの名前は、当初「タケラヌ」としていました。ギャグ丸出しの反対語ネーミングが本作のお決まりとはいえ、これはいくらなんでもあんまりです。

 通りすがりの読者さんからも「タケラヌは流石にもうちょっとなんかあったやろw」みたいなコメントを頂いたので、かなり経ってから、しれっと「ナエル」に差し替えました。こっちのほうがまだ人名に見えますね。


 あとは、いつか本名を明かすつもりでいたのに、最後まで名前を付けずじまいだったキャラもいます。『IDOLIZE』に登場した研修医の「ハル先生」がそうです。

 彼は羽生マユのプロダクションでスポーツドクターのようなことをしており、主人公・火群ほむら結依ゆいにも優しく手を差し伸べてくれます。結依は彼を信頼し、淡い憧れにも似た気持ちを抱くのですが、最後の最後で、彼の正体が、結依が全国大会で向かい合うべき強敵・壬生町みぶまち紡姫つむぎ従兄いとこであり、とどのつまり本来的には敵陣営の人間だったことが明らかになります。少年漫画の定番パターンですね。

 この仕掛けを読者に隠しておくために、作中人物の台詞でも地の文でも、彼のことはあだ名の「ハル」としか呼ばせませんでした。下の名前だけでも本名を出すと、なぜ名字が出ないのかと不審に思われるので、敢えてあだ名で呼んで目眩ましをしていたわけです。


 彼の名前の由来が何だったか、また本名は何を想定していたのか、今となっては私自身もよく覚えていません。彼の叔母にあたる壬生町ユーコは大島おおしま優子ゆうこがモデルなので、彼女が出演した『東京タラレバ娘』に登場する男性キャラ、鍵谷かぎたに春樹はるきから取ったような気もしますが……。

 いずれにせよ、今さら名付けるのも違うでしょうから、名前の分からないキャラは分からないままにしておきましょう。


 ……それとも、フルネームが気になるキャラはいるでしょうか?

 リクエストがあれば、何か考えるかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

板野かもの過去作品語り 板野かも @itano_or_banno

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ