第4回 「今年でちょうどフォーティーエイトでございます」

 板野作品に登場するアイドルグループといえば、ご存知「秋葉原エイトミリオン」を本店とする「エイトミリオングループ」。『IDOLIZE -アイドライズ-』(https://kakuyomu.jp/works/16816700428506924603)や、『NAVY★IDOL ~海軍士官が現代でアイドルキャプテンを目指すようです~』(https://kakuyomu.jp/works/16816700428531372120)といった作品では物語の舞台として登場し、その他の作品においてもよく言及されています。


 ところで、このエイトミリオン、『IDOLIZE』の開始当初は別の名称だったのはご存知でしょうか。

 このグループの設定は、言わずもがなAKB48グループのパロディなのですが、当初は「秋葉原48」及び「秋葉原48グループ」という、もっとそのまんまな名前になっていたんですね。元々は、『美女と野獣の仮面武闘スーツアクト』(https://kakuyomu.jp/works/16816700428483410691)や、『電脳歌姫の誕生と消滅』(https://kakuyomu.jp/works/16816700428484096680)の作中で先に出していた名称であり、それを『IDOLIZE』でも引き継いだ形でした。

 しかも、初期設定のみですぐに変更したというわけでもなく、約一年の長きにわたって秋葉原48は秋葉原48でした。なので、その時期に開催した「カクヨムヒロイン総選挙」や、「超ベニヤ杯」(http://blog.livedoor.jp/veneercup/)といったイベントでは、作中に登場するアイドルグループは当然「秋葉原48」と書かれています。


 しかし、いくらなんでも元ネタそのまんますぎるだろうということで、『IDOLIZE』の連載開始から約一年を経た2018年10月、「秋葉原48(グループ)」は「秋葉原エイトミリオン(グループ)」に改称することとし、作中の記述を全て差し替えました。作品間の整合性を取るため、『美女と野獣の仮面武闘スーツアクト』や『電脳歌姫の誕生と消滅』での記述も、遡って「秋葉原エイトミリオン」や「名古屋エイトミリオン」に変更しました。『IDOLIZE』以前に公開したこれらの作品に、先に「エイトミリオン」という名前が出てきたように見えるのは、こういうわけなのです。

 なお、『駄作バスター ユカリ』(https://kakuyomu.jp/works/16816700428506399124)の作中にも、天使あまつかリリーの所属先として「難波フォーティーエイト」(なぜかこちらは数字ではなくカタカナ表記)というグループが登場していたのですが、ドサクサに紛れてこれも「難波エイトミリオン」に差し替えています。


 エイトミリオン(800万)とは、「八百万の神」に掛けて、国内各地の支部に多人数のアイドルが所属しているという特徴を表現した命名なのですが、そこには、未来のアイドルグループを描いた『48million』シリーズ(https://kakuyomu.jp/works/16816700428482664020)との兼ね合いもありました。

 48millionシリーズには、AKB48を思わせるアイドルグループが、震災頻発期などの国難に乗じて規模を拡大し、25世紀までには国家をも手中に収める巨大グループ「48millionフォーティーエイトミリオン」へと変貌したという設定があります。同作の執筆当時は、その前身となった21世紀のグループの名は出しておらず、設定と名称から読者がAKB48を思い描いてくれるように仕向けていました。それと矛盾しないように、21世紀のグループを「秋葉原48」と名付けたのです。

 そうなると、改称後のグループ名も、未来において「48million」に繋がるものでなければなりません。具体的には「48」か「million」のいずれかを含んでいなければおかしくなります。「秋葉原48」がそのまんますぎるという理由で改称するのですから、「ミリオン」を含めるしかありません。こうした経緯から「エイトミリオン」という名前が出てきたのです。


 さて、改称当初は自分でもかなりの違和感を覚えていた「エイトミリオン」ですが、じきにそれも薄れ、『NAVY★IDOL』を書き始める頃には、もはや完全に「しっくりくる」名称として腹落ちしていました。「48」としていた頃は、どこまで行ってもパロディというか、借り物のガジェットで創作を行っているような後ろめたさがあったのですが、「エイトミリオン」という独自の名称に変更することで、このシリーズが真の意味で自分の作品になったとでも申しましょうか。

 とにかく、改称を境に世界が広がって見えたのは確かでした。


 ……しかし、概ね大成功だったといえるこの改称ですが、一つだけ大きな矛盾が残ることとなりました。

 それは、『IDOLIZE』における指宿いぶすきリノの初登場シーンです。

 ●原●しはら●乃●のをモデルとする彼女は、『IDOLIZE』の舞台の2040年では、参議院議員・内閣府芸能担当大臣として、芸能立国推進のため力を振るっている設定です。その大臣閣下が、スクールアイドルの大会であるスプリング・アイドライズひがし東京予選に来賓として招かれ、観客の前でこんな挨拶をします。


「皆さん、こんにちは。ご紹介にあずかりました指宿リノ、今年でちょうど四十八歳フォーティーエイトでございます」


 これですよ。手前味噌ながら、当時の読者さんからも印象的な台詞として度々言及され、彼女の代名詞のようになっていた自己紹介です。

 それなのに、「48」から「エイトミリオン」への改称によって、この台詞の意味が通らなくなってしまったんですね。この世界には、なんちゃらフォーティーエイトというアイドルグループは存在しないわけですから。実際に2040年の誕生日で48歳になる●原●しはら……もとい指宿閣下が、ここで自分の年齢を英訳して笑いを取る意味が全くわからなくなってしまったのです(さらに言うなら、春時点での彼女はまだ47歳であり、いよいよもって「今年で48歳」と口にする意味がありません)。


 無論、私は改称当時からこの問題を認識していましたが、迷いに迷った挙句、この台詞は変えたり削ったりせずそのまま残すことにしました。

 こんな明白な矛盾を作中に残すのは、本来なら作家としてあるまじき態度です。しかし、第四の壁を超えたメタネタになろうとも、どうしてもこの自己紹介を残したかった。

 幸か不幸か、表立ってツッコミを入れてくれる人はいませんでしたが、改称後に初めて本作を目にした人は、この台詞を見てさぞ変だと思ったことでしょう。だってこの世界に「フォーティーエイト」はないんだもの。それでも変えたくなかったんですね。


 無理に説明を付けるなら、秋葉原エイトミリオンの昔のユニット名か曲名か何かで、なんちゃらフォーティーエイトというものがあり、それが現役時代の指宿リノと強く結びついた言葉としてファンにも認識されていたのでしょう。相撲の四十八手をモチーフにした「恋の四十八手フォーティーエイト」とかいう曲が持ち歌だったのかもしれません。

 いや、現実のAKB48グループの歴史に存在しない曲を「あったこと」にするのは、それはそれで本作のこだわりとしてはダメなのですが……。


 ちなみに、この指宿リノの職位の「内閣府芸能担当大臣」とは、主管官庁を持たない内閣府特命担当大臣の一種という設定です。現実における現行制度上は「内閣府特命担当大臣(芸能担当)」と書かれるべきものですが、まどろっこしいので、2040年の日本では「内閣府特命担当大臣(○○担当)」が「内閣府○○担当大臣」と呼ばれていることにしました。

 そして、大臣への敬称は「閣下」なので、当時から仲間内では彼女をよく「指宿閣下」と呼んでいました。後の『NAVY★IDOL』では若き日の彼女が登場しますが、主人公・飛羽ひば隼一じゅんいちが彼女を「指宿閣下」と呼ぶのは、つまり一種の内輪ネタでもあるわけです。逆に『NAVY★IDOL』を先に読んだ方は、『IDOLIZE』を見て「閣下が本当に閣下になってる……」と笑ってくれたかもしれません。


 現実の●原●っしーは、私がこれを打っている2021年11月14日時点で28歳。ちょうどあと一週間で29歳になります。

 来年7月の参議院議員通常選挙には僅かに間に合いません。『IDOLIZE』の設定では、初めて被選挙権の行使が可能となる2025年、32歳で与党の擁立を受けて出馬し初当選したことになっています。

 ここまで、48グループの未来に関する私の「予言」はことごとく外れまくっていますが、最後に一つくらい的中してくれたら面白いですね。

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