第3回 「ジャンルはSFにしておいて」

 皆さんは、カクヨムに作品を投稿するにあたり、「ジャンル」の設定で迷ったことはおありでしょうか。

 多くの場合、異世界が舞台なら「異世界ファンタジー」、現実が舞台なら「現代ドラマ」、恋愛が主体なら「恋愛」や「ラブコメ」などと、作品の内容や方向性に応じてジャンルは迷いなく選択できることと思います。


 しかし、私がカクヨムで発表した長編の中で一つだけ、最後までジャンル設定に迷い続け、そして今も迷っている作品があります。

 それが、近未来の小説ゲームバトルを描いた『ノベルバトラー ライト -新時代小説ゲーム戦記-』(https://kakuyomu.jp/works/16816700428532913321)です。


 本作は、2019年開催の「ファミ通文庫大賞」の応募作として書き下ろした作品であり、同コンテストの「ゲームノベル特別賞」に狙いを定めていました。だからゲームバトルがテーマなのです。

 当時、新元号「令和」が発表されたばかりだったこともあり、本作は令和20年の近未来を舞台としました。これは、高度なAIによる判定システムを備えた小説ゲーム「ノベルバトル」というガジェットを成立させるための時代設定でもあります。

 主人公は、令和生まれの中学生・あらた 雷斗ライト。彼のもとに、「平成の紫式部」と呼ばれた早逝の天才作家・左京さきょう紫子ゆかりこの幽霊が取り憑き、ふたりは二人三脚でノベルバトルに挑んでいくことになります。


 さて、この作品、どのジャンルに置くのが適切でしょうか。

 舞台が現代ではない上、幽霊という非現実的な存在が出てくるので、「現代ドラマ」に置くのはそぐわない気がします。さりとて、異能バトルの類でもないので、幽霊の存在のみをもって「現代ファンタジー」と呼ぶのもおかしい。ノベルバトルのAIは現代には存在しないテクノロジーですが、たかだか20年ほど先の時代を舞台にしているだけで「SF」を名乗るのも違う気がする。

 ……と、迷った末に、当時の私は何を思ったか、本作のジャンルを「ラブコメ」に設定していました。「現代ドラマ/現代ファンタジー/SF」という「設定に基づくジャンル」に適切なものがない以上、「方向性に基づくジャンル」に頼るしかないと思ったのでしょう。

 しかし、紫子の他に、春風はるかぜレイナ、花里はなざと松葉まつばといったヒロインは出てくるとはいえ、本作の本質はどう考えてもラブコメではありません。

 まあ、でも、当時はそれでも構わなかったのです。なぜなら、本作はコンテストへのエントリーを目的としており、そこに置いてある限りは各ジャンルの通常ランキングには上がってこないので。ラブコメを探しに来た読者さんが、本作を見て「これ違うじゃん」となる不幸な事故は、まず起こらなかったのです。

 後の「カクヨムコン5」でも同様でした。カクヨムコンでは、作品自体のジャンル設定に関係なく、任意の部門に作品をエントリーできます。本作は「SF・ゲーム部門」(のゲームの方)に放り込んでいました。そこに置いてある限りは、ジャンル設定がラブコメだろうと何だろうと誰も困らないのです。


 改めて困ったのは今回の再掲時です。今度はコンテストには参加しないので、改めてどこかのジャンルに本作の居場所を定めなければなりません。まあどう考えてもラブコメに置くのは場違いでしょう。

 少し考えて、とりあえずSFに置いてみました。令和20年とはいえ未来は未来ですから。しかし、ラブコメ程ではないにせよ、SFを読みたくて探しに来た読者さんが本作と出会ってしまうのも、なかなかのアクシデントだよなという思いはありました。

 そして、つい一日ほど前、そういえば『IDOLIZE』も2040年の設定なのに堂々と現代ドラマを名乗っていたなぁと思い出し、だったらいいか、ということで、本作も現代ドラマに引っ越しさせることにしました。

 幽霊が一人出てくるくらいなら、まあ現代ドラマの範疇でいいでしょう。この先、レイナ達も文豪の幽霊を召喚してスタンドバトルを始めるようなことになれば、紛うことなき現代ファンタジーですが(「この先」も何も、続きを書くことはもうないのですが)……。


 余談ですが、今回のタイトルに掲げたのは、自信家の高校生・速水はやみ涼馬りょうまとのバトルに挑む際の紫子の台詞です。


《《ジャンルはSFにしておいて》》

(大丈夫なのか? 相手の得意分野なのに)

《《大丈夫。わたしは小説が得意なんだよ》》


 手前味噌ですが、当時、このやりとりを大変気に入ってくれて、レビューでも言及してくれた読者さんがいました。

 いいですね、「私は小説が得意なんだよ」って。いつか私も言ってみたいものです。


 何の話でしたっけ。そうそう、本作のジャンル設定ですね。ひとまず現代ドラマに置きましたが、この先また気が変わったら変更するかもしれません。いっそ「創作論」に置いてみるというのは……流石にないか。

 皆さんでしたら、この作品はどのジャンルに置きますか?

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