板野かもの過去作品語り

板野かも

第1回 「無論、正義の為だ」

 先日、 『ブラック企業をぶちのめせ!』(https://kakuyomu.jp/works/16816700428483728427)の白山しろやま白狼はくろう弁護士のファンとして知られる如月芳美さんが、懐かしい画像をツイートして下さいました。

 

 https://twitter.com/YoshimiKisaragi/status/1457037291541594114


「敵は社会の上層を牛耳る巨大企業だ……一人の弁護士がどうこうできる相手じゃない!」

「人類が文明を持った瞬間から、この世には搾取する側とされる側しか存在しないのだよ」

「賠償金をどれだけ取ったって、あの子が帰ってくるわけじゃないのよ!」

「芸能人なんて所詮、現代の奴隷なんですよね……」

「引き際を知らないのが君の悪い癖だ。下手に動くと懲戒請求されかねんぞ!」

「もう諦めた方がいいわ……この国には、国家権力より強いものがあるのよ」

「白山先生、あなたは何の為に戦うんですか?」

「――無論、正義の為だ」


《板野かもPRESENTS

 劇場版 弁護士ホワイトウルフ COMING SOON!》


 ……手元のファイルのタイムスタンプを信用するなら、これを私が作ってツイートしたのは、2017年の年の瀬のことだったと思います。カクヨムに参加して一年が過ぎようとしている頃でした。


 一見、ただの劇場版予告風ジョークに見えるこの画像ですが、あながちウソ予告でもなかったのですよね。

 というのも、当時、弁護士ホワイトウルフシリーズは、某レーベルからの出版を目指して、鋭意長編の企画中だったからです。

 ただ、原作のままでは、各事件の舞台が地味すぎてインパクトに欠けるとか、主人公・不動ふどう志津しづの動機が「働くコン」という身内ネタに寄りすぎているとか、まあ編集者が指摘するところの色々な問題があり、それならばいっそ、スケールアップした長編を書き下ろしで出そうという流れになっていました(より正確に表現するなら「書き下ろしで出すための会議に出す準備のための準備をしよう」くらいのニュアンスです)。

 その長編のプロット案が、この劇場版予告風画像に近い内容だったわけです。

 もちろん、出版に関する話が動いている最中は、その入口程度の情報であっても口外はできないのですが、以前から「ホワイトウルフシリーズの新作はいつか書きます」と周囲に言っていた手前もあり、情報を表に出せないかわりにこの画像でお茶を濁したという側面もありました。


 また、当時、私は如月さんにこんなことも申し上げていたようです。


 如月さん「私、アイドルに全く興味ないんで、アイドルの方は読まないと思います」

 板野「じゃあ、如月さんが読みたくなるようなアイドルもの書きますよ。アイドル世界の闇を弁護士に相談するなら読むでしょう?」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884313754/episodes/1177354054884967178


 今となっては、有言不実行となってしまい恥ずかしいお話ですが、件の長編ではこれを実行するつもりでいました。

 当時話題だった●んつうをモチーフとした巨大企業に、白山弁護士が切り込む最初の切っ掛けが、上記予告で「芸能人なんて所詮、現代の奴隷なんですよね……」と嘆いているアイドルの少女だったわけですね。


 しかし、結局のところ、この作品が形になることはありませんでした。

 長編版ホワイトウルフの企画は、多忙を極める編集氏の手元に一年ほど死蔵された末、誰にも顧みられることのないままひっそりと没になりました。この世界ではよくあることなので、嘆いても始まりません。


 かろうじて、短編『弁護士ホワイトウルフの聖夜』(https://kakuyomu.jp/works/16816700428483728427/episodes/16816700428483877862)の、「メディアでも大きく取り上げられた巨大な違法企業」に白山が止めを刺したという記述と、後の『妖怪だって有給が欲しい! ~弁護士ホワイトウルフのあやかし労働法相談~』(未完/https://kakuyomu.jp/works/16816700428556778207/episodes/16816700428557503884)第2話の、「雷通らいつうの巨悪に正義のメスを入れた昨年の大活躍」という記述だけが、幻と消えた白山の活躍を読者に伝えるものとなっています。


 この名義での創作活動には見切りをつけた身とはいえ、本として世に出してやれなかったキャラクター達への自責の念は、今も私の胸中を占めています。

 せめて、ここでこうして語ってやることが、彼らへの供養になるでしょう。

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