第2回 「全く、物書きという人種は変人揃いだと思わんかね」

 第2回は別の作品の話をしようと思っていたのですが、急遽今回もホワイトウルフです。

 というのも、前回の文章をアップした後、ラストで挙げた短編『弁護士ホワイトウルフの聖夜』と、未完作『妖怪だって有給が欲しい! ~弁護士ホワイトウルフのあやかし労働法相談~』の2作を見返して、面白いことに気付いた……というか、思い出したからです。


 本編主人公の不動ふどう志津しづは、作家志望であり、白山しろやま白狼はくろうの活躍を小説に書いているという設定でした。

 そして、本編の約半年後の後日談にあたる『弁護士ホワイトウルフの聖夜』では、白山のこんな台詞があります。


「そうそう、ウチのひよっこ法律事務員パラリーガルが、例の小説を自費出版で世に出したいと言ってね。そんな費用など俺が出すからと言ったのだが……彼女はあくまで自分で費用を捻出したいそうだ。……全く、物書きという人種は変人揃いだと思わんかね」


 とどのつまり、志津の小説はコンテストに落選してしまったようです。本作自体が「働くコン」で受賞に至らなかったことのメタフィクションでもありますね。


 対して、後に「カクヨムコン4」用に執筆を開始し、結局取り下げてしまった『妖怪だって有給が欲しい! ~弁護士ホワイトウルフのあやかし労働法相談~』(以下、「あやかしウルフA」)では、志津がホワイトウルフ法律事務所で働き始めて丸二年とあり、そして彼女は現役の兼業作家として活躍していることになっています。

 つまり、落選後、何らかの形で拾い上げられて書籍化デビューに至ったのでしょう。これも現実のメタフィクション……となればよかったのですが。


 ところで、今、何気なく「あやかしウルフA」などと書いたのは、勿論「あやかしウルフB」もあったからです。それどころか、「あやかしウルフA'」までありました。

 詳細は「形にならなかった作品たち」(https://kakuyomu.jp/works/16816700428556778207)の各作品解説に書きましたが、「あやかしウルフA」を第1章まで書き上げたところで、当時の私は「どうもこれは違うぞ」と思い直し、同じカクヨムコン4への応募作として「あやかしウルフB」を書き始めました。それが『あやかし法廷 ~妖怪弁護士ホワイトウルフの事件簿~』です。

 こちらは、本編の世界線(=「A」の世界線)の志津が、白山をモデルに著した小説という設定であり、作中に登場するホワイトウルフは白山ならぬ「白白狼」でした。自分が「主人公に向かないキャラ」であることを気にしていた志津が書いたので、こちらの主人公は志津とは真逆の大人しいお嬢さんになっています。しかも、この世界のホワイトウルフは人間ではなく妖怪だったようです。

 ただ、超絶ホワイト事務所に勤める志津とは異なり、当時の私にはそこまで時間の余裕がなかったので、この「B」の筋書きは原作の焼き直しでした。そこまでしている自分が嫌で、本作は「A」よりも短い僅か3話で打ち切ってしまいました。黒歴史ならぬ白歴史といったところです。


 かくして、一度は二作とも幻と消えた「あやかしウルフ」ですが、後にオムニバス作品『あやかし特区のワーキンガールズ!』(https://kakuyomu.jp/works/16816700428533464833)の収録作として再度駆り出されることとなります。これは非公開とした「あやかしウルフA」の第1章をベースに、主人公を新キャラの司法修習生に差し替え、舞台を「あやかし特区」たる新潟市に変更したもので、いわば「あやかしウルフA'」です。

 この世界のホワイトウルフは人間ですが、東京ではなく新潟に事務所を構えているパラレルワールドの存在なので、やはり白山ではなく「白白狼」となっています。「白山が初めて妖怪の世界と邂逅する話」を、「白が日常の一環として妖怪と関わる話」に突貫工事で改造し、おまけに志津の小説絡みの描写を削除してかわりに司法修習の話を入れ込んだので、今見るとかなり強引な筋書きになっています。


 なぜそんな無理をしたか。コンテストの〆切まで時間がなかったから、というのもありますが、やはり当時の私はホワイトウルフというキャラを捨てきれなかったのでしょう。どんな形でも、彼の活躍が書籍として世に出ることになれば……という思いがあったのだと思います。

 なお、前回触れた件を含め、ホワイトウルフシリーズは都合二度ほど出版検討にかかり、いずれもポシャっています。三度目を目指すことはもうありませんが、せめて皆さんの心の中に彼が生き続けてくれることを願うばかりです。

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