これこそマンガではなく、文章で読むべき名作!

 設定だけを見てみると、侘しい一人住まいの女性と、その一室に棲む仔犬ほどもあるクモという組み合わせはホラーにしか思えてしまうのですが、読んでみると、ホラーではなく、「どこにでもいる有り触れた女性の、少し現実離れした生活」という読み口になっていると感じます。

 仔犬ほどもあるクモの存在がホラーではないのは、正しく丁寧な描写に寄るところが大きいと思わされます。怪物にされがちな設定だけれど、そこから不気味さを排除し、また逆にペットのように愛くるしい擬人化するような事もなく、「そこにいる存在」として描かれています。

 そのクモが、絵では描けない、読者に想像させられる文章だからこそできる事です。

 癒やしばかりをクローズアップするペットもの、動物ものとは一線を画しつつも、そこに感じるものは安らぎ、温かさのような気がしてしまうのも、主人公の心情描写、そこに不必要なまでに寄り添おうとするサブキャラクターがいないからかも知れません。

 登場人物には、皆、それぞれ長所と短所があるのも特長で、ご都合主義的なラブコメや恋愛で「直せばいいのに」と思わされる短所が、この物語ではその登場人物の個性であり、直す直さないという単純な話にならないと感じてしまうのも、描写のさじ加減が非常に優れているからだと強く感じさせられました。

 不思議な感じで始まり、リアリティのある非日常、リアルではないクモとの生活があり、不思議な感じで終わる、というのが私が抱いた感想の要約ですが、それら全てに「人ひとりが生きている数日だ」と納得させられる物語です。