Rí na sióg - Trí
……オウェングスを招いて一時間。ルーシーは逃げ出すこともできず、少なくなっていく料理を茫然と眺めていた。少なからぬ空腹と、それを上回る気味の悪さ。まるで別世界に迷い込んでしまったようで、思わず気が遠くなりそうだった。
「オウェングス様、今年もお楽しみいただけましたか?」
『ああ、満足だ。今度からは、別の王も連れてこよう』
イーファがそう尋ねると、妖精の王は妖艶な微笑を零し、くくくと声を立てた。虹色の羽をパタパタと動かしながら、そのままゆっくりと立ち上がる。
『では最後に……。その者を受け取って、私は去るとしよう』
――彼の美しい視線の先には、何も分からないルーシーの姿が。花冠を載せたまま、顔を引きつらせている。……当然、彼のことは見えていない。
「受け取ってくれ、オウェングスよ。――今年の生贄だ」
そう言うと、祖父は黒い笑いを浮かべた。知らない内に生贄として差し出される人間の、何と憐れなことか。
「え……? な、何ですか……?」
祖父が笑い始めたのを見て、ルーシーが困ったように尋ねる。その間にも、オウェングスは彼女の下へと近づいていた。ゆっくりと、髪を揺らしながら。
「ごめんね、ルーシー。パーティを終わらせるには、こうするしかないの」
不安がるルーシーとは対照的に、イーファは満面の笑みを貼りつけている。安寧を手に入れるため、生贄として留学生を差し出す。……祖母が死んだ数年前から、ずっとその繰り返しだった。
「い、イーファ……?」
――オウェングスの手が、ルーシーの左肩に触れる。その瞬間、彼女はこの世界から永遠に追放された。かつての神々と、全く同じように。
「さようなら、王の生贄。異界の地でも、元気でね」
異界の王・オウェングス 中田もな @Nakata-Mona
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