Oíche Shamhna - Dó

 翌日。二人は焼いたパンプキンパイを持って、車で三十分の距離にある祖父の家に向かった。西海岸に位置するゴールウェイでも、さらに海に近い場所。その通りに並んだ内の一軒が、祖父の家だ。

「しかし、父さんも楽しみだろうなぁ。ホームステイの学生が来るようになって、ここ数年は気合入ってるだろうよ」

 そう言いながらハンドルを握るのは、イーファの父だ。慣れた様子でウインカーを出し、横の車を追い抜いていく。

「もしかして、毎年ホームステイを実施しているんですか?」

「ええ、そうよ。最近はルーシーちゃんみたいな子も増えたから、うちは積極的に受け入れをおこなっているの。去年はね、わざわざアメリカから学生が来たのよ」

 後部座席で驚くルーシーを見て、今度は母がクスクスと笑った。滑らかな赤いロングヘアが、その動作とともに揺れる。

「アメリカですか……。随分と遠いところから……」

「ね! でも、私は楽しいよ。色んな国の話が聞けるから!」

 イーファの明るい声に合わせて、車窓の景色が動いていく。すでに辺りは真っ暗だが、もう少し行けば海岸沿いに出られそうだ。

「ねぇ、ルーシー。イギリスでは、どんな風にハロウィンを過ごすの? やっぱりみんなで集まって、ごちそうとか食べるの?」

「うん、そうだよ。でもね、えーっと……。イギリスでは、『ガイ・フォークス・ナイト』っていうイベントがあるの。花火も打ち上げるし、すっごい盛り上がるんだよ」

 「ガイ・フォークス・ナイト」とは、毎年十一月五日におこなわれる、イギリスの伝統行事だ。ルーシーの話によると、ハロウィンも大事なイベントではあるが、この日の派手さはかなりのものらしい。彼女は精一杯のアイルランド語を使って、懸命に説明してみせた。

「へー、面白そう! 私も参加してみたいなぁー」

「そしたら、今度はイーファがイギリスにおいでよ! 私が案内してあげる!」

「本当!? やったー!!」

 歳が近いからか、二人の会話は大いに盛り上がる。そうしている内に、車はあっという間に祖父の自宅に到着した。

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