Oíche Shamhna - Trí
「父さん、来たぞ」
「おお、キアン。待っていたぞ」
父がドアを開けると、セーターを着た祖父がひょっこりと顔を出した。すぐに出てきたところを見るに、今か今かと待ちわびていたらしい。
「おじいちゃん!」
「イーファ、よく来たな! さぁさぁ、上がって上がって」
こじんまりとした家に、華々しい飾りつけ。これも全て、祖父が一人で準備したのだ。
「君が今年の留学生だね。遠慮せずに、楽しんでいってくれよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
いささか緊張していたルーシーだが、祖父の穏やかな人柄を見て、ほっと胸をなでおろした。イーファから話は聞いていたが、実際に会ってみるとその優しさがよく分かる。
「ルーシー、この席に座って! 今からパーティの準備をするからね!」
イーファが指差す先には、美味しそうな料理がズラリと並んでいる。マッシュポテトにかぼちゃのグラタン、さらにはローストビーフまで、最早食べ切れないほどの量だ。
「す、すごい……! こんなに……?」
「そうだよ! 私の家はいつもこうなの!」
そう言いながら、イーファはアップルサイダーをカップに注ぐ。「サイダー」の名前がついているが、りんごのピールやスパイスの入った、温かい伝統飲料だ。
「お父さん、かぼちゃのスープはこの器でしたっけ?」
「ああ、そうそう。忘れたらいかんよ」
大きな鍋をかき回す祖父と、大量のスープカップを取り出す母。明らかに、この場にいる五人分の量ではない。
「ねぇ、イーファ……。これって、さすがに多すぎじゃないかな? 私、そんなに食べられないし……」
「ルーシーは心配性だなー。あんまり気を揉むと、パーティを楽しめないよー?」
イーファの用意したカップも、すでに六個以上はある。一体誰が、この量を消費し切るのだろうか。
「おーい、キアン。りんごは持ってきたか?」
「ああ、もちろん。忘れたら、えらいことになるからな」
ルーシーの前に腰を下ろした彼は、紙袋を漁ってりんごを取り出す。かぼちゃではなく、真っ赤に実ったりんご。それだけではなく、編み込みのきれいな花冠を取り出し、ルーシーの頭の上に載せた。
「はい、ルーシーちゃん。パーティ中は、これを被ってね」
「え? あ、はい……」
これが、アイルランドのハロウィンなのだろうか。少々不思議がるルーシーのことを、イーファはあえて無視した。
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