Oíche Shamhna - Ceathair

「さてと。これで準備は整ったね」

 入念に飾られたリビングに、大きなテーブル。その上には、多すぎるほどの豪華な食事。その様子を細々と確認した祖父は、ようやく上座に腰を下ろした。すっと息を吐き、一同をぐるりと見渡す。

「それでは、これからハロウィンパーティを始める。まずはいつも通り、私の話からだね」

 イーファとその両親は、例年通りといった顔つきで、各々の席に着いている。ただ一人、ホームステイ中のルーシーだけが、よく分からないと言いたげに首をかしげていた。

「ルーシーちゃん、だったかな? ルーシーちゃんは、『妖精』と聞いて、何を思い浮かべる?」

「え……? 妖精、ですか?」

 いきなりの質問に、少々面食らうルーシー。留学生に話しを振るのも、イーファ家の恒例行事なのだ。

「えーっと、そうですね……。オベロンとか、ティターニアとか?」

「ティターニア……。その名前は、シェイクスピアの世界だね」

 祖父は優しく微笑むと、今度はイーファの方を向いた。彼女は戸惑うルーシーの隣で、平然として座っている。

「イーファ、よろしく頼む」

「ええ、もちろん。いつものように、説明してあげるわ」

 そう言いながら、ニヤリと笑う彼女。……何も変わらないはずの空間が、たった一瞬だけ、暗くなったように思えた。

「ルーシー、よく聞いてね。妖精っていうのは、異界に追放された神々のことなの」

「異界に追放された、神々……?」

 疑問符を浮かべるルーシーに、イーファはこくんと頷いた。留学生の微妙な反応は、別に珍しいことでもない。

「そう。かつてアイルランドを支配していた神々は、人間との闘争に負けて、異界へと追放されたの。彼らはその地で妖精となって、今もこの世界を見守っているのよ」

「は、はぁ……」

 イーファの両親は、静かに目を閉じたまま、娘の話を聞いている。微動だにしないその様子も、いささか奇妙ではあった。

「異界に住む妖精は、普段はこの世界に干渉してこない。だけど、ハロウィンの日は違う。全ての世界の境界線が曖昧になって、妖精となった神々がやって来る。……だからね、精一杯お迎えしないといけないの」

「え……? お迎え……?」

 きょとんとするルーシーをよそに、イーファは祖父に軽く合図を送った。――今こそ、異界の妖精を招くときが来たのだ。

「さぁ、いでよ!! 異界より招かれし妖精の王、オウェングス!!」

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