Rí na sióg - Haon

 ――祖父が声高に呼び掛けた瞬間、幻想的な蝶々が舞い上がる。繊細な羽を持つ、優雅で儚い蝶。それらは部屋の隅で旋回し、やがて美しい青年の姿となって立ち現れた。

『くくく……。今年もまた、随分と派手に飾りつけたな』

 流れるような藍色のミディアムヘアに、透き通った氷色の瞳。滑らかな白い背中には、虹色に輝く羽がついている。彼は髪についた花飾りを揺らしながら、面白そうに笑みを零した。

「偉大なる妖精の王よ。今宵の宴、ぜひ楽しんでほしい」

『ああ、そうさせてもらうぞ。年に一度のハロウィンだからな』

 確かな足取りでテーブルへと向かい、その一席に着席する妖精。彼こそが、かつての愛と美の神であり、そして異界の地で妖精の王となった、誉高いオウェングスだった。

「オウェングス様、まずはこちらをお召し上がりください」

 イーファの母が立ち上がり、かぼちゃのスープを彼に手渡す。その恭しい様子は、イーファたちにははっきりと見て取れた。……たった一人、ルーシーを除いては。

「ひっ……!? う、嘘……!?」

 ――ルーシーには、オウェングスの存在が確認できなかった。彼の姿はおろか、彼の優雅な声すらも聞こえない。だからこそ、彼女は血の気の引く思いだった。……コツコツと足音がしたと思ったら、椅子が勝手に動き、さらにはスープカップまでもが宙に浮き始める。そんな光景を目の当たりにしたら、誰だって気が動転するだろう。

「ど、どういうことなの!? 誰か、誰かそこにいるの!?」

 驚きのあまり、英語を漏らし始めるルーシー。それを見たイーファは、心の中で静かに笑った。あの慌て方、去年の留学生と全く同じだ。

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