Rí na sióg - Haon
――祖父が声高に呼び掛けた瞬間、幻想的な蝶々が舞い上がる。繊細な羽を持つ、優雅で儚い蝶。それらは部屋の隅で旋回し、やがて美しい青年の姿となって立ち現れた。
『くくく……。今年もまた、随分と派手に飾りつけたな』
流れるような藍色のミディアムヘアに、透き通った氷色の瞳。滑らかな白い背中には、虹色に輝く羽がついている。彼は髪についた花飾りを揺らしながら、面白そうに笑みを零した。
「偉大なる妖精の王よ。今宵の宴、ぜひ楽しんでほしい」
『ああ、そうさせてもらうぞ。年に一度のハロウィンだからな』
確かな足取りでテーブルへと向かい、その一席に着席する妖精。彼こそが、かつての愛と美の神であり、そして異界の地で妖精の王となった、誉高いオウェングスだった。
「オウェングス様、まずはこちらをお召し上がりください」
イーファの母が立ち上がり、かぼちゃのスープを彼に手渡す。その恭しい様子は、イーファたちにははっきりと見て取れた。……たった一人、ルーシーを除いては。
「ひっ……!? う、嘘……!?」
――ルーシーには、オウェングスの存在が確認できなかった。彼の姿はおろか、彼の優雅な声すらも聞こえない。だからこそ、彼女は血の気の引く思いだった。……コツコツと足音がしたと思ったら、椅子が勝手に動き、さらにはスープカップまでもが宙に浮き始める。そんな光景を目の当たりにしたら、誰だって気が動転するだろう。
「ど、どういうことなの!? 誰か、誰かそこにいるの!?」
驚きのあまり、英語を漏らし始めるルーシー。それを見たイーファは、心の中で静かに笑った。あの慌て方、去年の留学生と全く同じだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。