Rí na sióg - Dó

『……ふむ、実に美味だな。この世界の料理も、やはり悪くはない』

「どうぞ、心ゆくまでお楽しみください」

 そう言いながら、母はスープのおかわりを差し出す。余るほどの大量の料理は、全て妖精の王を讃えるために存在するのだ。

『次は、その肉料理をいただこう。その次は、青々としたサラダだ』

「かしこまりました、オウェングス様」

 イーファが慣れた手つきで肉とサラダを取り、彼用の白いプレートに盛りつける。ルーシー以外の全員が、この状況を当たり前のこととして受け入れている。

「こちらのりんごも、ぜひ。この国の高級品です」

 父がそう言うと、途端に美しい蝶々がりんごの周りに集まり出した。オウェングスの意志に従い、品定めを始めているのだ。

「な、何なのよ、これ……!?」

 イーファたちからすると、妖精の王を迎え入れる神聖な儀式。しかしルーシーからすると、ただの怪奇現象でしかなかった。自分のことを置き去りに、粛々と事を進める彼らのことを、彼女が不審がらないはずがない。

「イーファ!! 一体、何が起こっているの!? お願いだから、ちゃんと説明して!!」

「ルーシー、あんまり騒がないで。オウェングス様が気を悪くされるわ」

 イーファは彼女の叫びを無視して、オウェングスの要望を素直に聞き入れる。彼はローストビーフとサラダを食し、次はパンプキンパイに手をつけようとしていた。

「オウェングス様、このパイは私が作ったものです。お味はいかがでしょう?」

『くくく、十分だ。もっと寄こせ』

 オウェングスは満足そうに口角を上げると、目の前にあったアップルサイダーに口をつけた。その所作一つ一つが、実に優美で整っている。

「オウェングスよ。この歓迎をもって、向こう一年の安寧を、我々に授けてほしい」

『当然だ。そういう決まりだからな』

 ハロウィンの夜に宴を開き、オウェングスを招待する。彼を歓迎し、そして称賛することで、イーファの家族は安寧を授かることができる。……この儀式は、いわゆる禁忌だった。祖母を亡くした祖父が手を染めた、許されざる禁忌。それを知らないのは、気軽に招かれた留学生だけだった。

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