2021,11.02


 レンガ造りの家々が立ち並び、通路の端や家の軒先には飾り彫りのされたカボチャが立ち並ぶ。そんなカボチャと共に飾られるのは笑顔の藁案山子スケアクロウと藁で束ねた蜘蛛人形スパイダードール。けれどそれらに灯りは灯されておらず、誰も彼も眠っているようだった。


 そんな町に流れるのは静な小夜曲セレナーデ。されど奏者の姿はなく、古めかしい蓄音機からそれは流れていた。銀の鍵を手にした不思議な子は、大広場の中央で南瓜に腰掛け1人ポツンと座ってる。

 退屈そうにぶらぶらと、足を揺らして夜を待つ。


 誰も知らない不思議な子、南瓜頭パンプキンヘッドの幼い子は銀の鍵が輝く夜を待っている。


「今宵は誰を呼ぶのかしら?

 誰に繋がるのかしら?

 楽しみで仕方がないのだわ!」


 太陽が地平の果てに沈むのを、愉しそうに子供ジャックは見ているの。まだ見ぬ誰か、子供ジャックの知らないあの人を望んでる。




 そして何時しか太陽は地平に沈み、子供ジャックが待ち望んだ夜が来た。

 家々に灯りが灯り、南瓜提灯パンプキン・ランタンの火が妖しく灯る。静な小夜曲セレナーデは終わりを迎え、明るい円舞曲ワルツが町を染めていく。


「踊りましょう、歌いましょう!

 まだ見ぬ誰か、私達と遊びましょう!!」


 子供ジャックが立ち上がり、輝き出した銀の鍵を振りかざす。子供ジャックは心の赴くままに、円舞曲ワルツに乗せて描くのだ。


 虚空に残る煌めきが、五芒星を描く時。

 子供ジャックの願いが世界を開き、繋げるのだ。

 過去と未来、有り得た世界に消えた世界、子供ジャックが繋ぐのはどの世界? そんなのは子供ジャックにだってわからない、子供ジャックが特定の個人を求めることはないのだから。


 そうして繋いだ世界から、呼び出されたのは1人の女性。長い銀髪は上質な絹糸みたいで、その整った顔立ちは人形と言われても信じてしまいそう。衣服も相まって、上質な西洋人形ビスク・ドールみたい。


「こんばんわ、お姉さん!」


 子供ジャックはキラキラ目を輝かせて近づくと、元気な声で挨拶をした。昨夜の彼女マリーナ同様に、彼女は膝を折り子供と目線を合わせる。


「こんばんわ、可愛い

「……お姉さん、私達のことがわかるの?!」

「勿論ですよ、感謝祭の夜にだけ顕れる不思議で愛らしい子供達あなたたち


 南瓜頭パンプキンヘッド子供達ジャックはそれはそれは嬉しそうに笑いました。


「凄いわ、凄いのだわ!

 お姉さん、貴女のお名前を教えてくださいな!」

「私はリブラと申します。

 愛らしい子供達あなたたち、お名前をお尋ねしても?」

無名ジャックだよ、リブラお姉さん!」

無名達ジャックですね、わかりました」


 そういって微笑むと、子供達ジャックは彼女の頬を突っついてまるでお人形みたいだとはしゃぐのだった。


「ねぇ、リブラお姉さん?」

「なんでしょうか」

「お姉さんは私達わたしと遊んでくださるかしら?」

「構いません、何をして遊びたいのですか?」

「私、貴女と踊りたいわ!」


 子供達ジャックは彼女の手を取り踊りに誘う。彼女は優しく微笑むと立ち上がり、その手を優しく手放す。手を離された子供達ジャックは寂しげな顔で俯いてしまう。


「お姉さんは、踊ってくださらないの……?」

「──いいえ」


 パチリと指を鳴らした途端、四体の洋風人形ビスクドール子供達ジャックの回りに現れた。それらは色鮮やかなドレスを身に纏い、ふわりふわりと舞い踊る。


「可愛らしいお人形さんなのだわ!

 彼女達は、リブラお姉さんのお友達?」

「はい。とっても大事なお友達です」


 その姿を見た子供達ジャックの顔に笑顔が戻り、両手もろてを叩いて喜んでいた。彼女はふわりふわりと舞い踊る人形を追いかける子供達ジャックの前でかがみ、その手を取る。


「さぁ、子供達ジャック

 狂詩曲ラプソディー装飾曲アラベスク子供達あなたの望む曲でお相手いたしましょう」

「まぁ、それはとっても素敵なのだわ!」


 流れるレコードの旋律に合わせ、二人と四体の洋風人形は踊ります。彼女は子供達ジャックの動きに合わせ巧みに踊り、それとあわせて人形達を操るのです。華やかなドレスでひらりひらりと舞い踊る、その動きはしなやかであり滑らかな素晴らしい挙動。大きさが大きさならば、生身の子供と言われても信じた事だろう。


 そしてもう一つ。流れる曲が変わる度、人形達の衣装も変化していたのだ。

 夜想曲ノクターンが流れれば紺を基調とした夜空を模した静な華のあるドレスへと、小夜曲セレナーデに変われば恋する乙女心を想わせるワンピース調のドレスへ切り替わる。

 その度に子供達ジャックは喜び、愉しげに笑うのだった。


 まるで魔法に魅せられる子供のように、笑顔が絶えることはなかったのだ。明るく楽しい夢の時間、それが何時までも続けば良いと子供達ジャックは願っていたのだろう。けれどそうならないことを、終わりが来るのを知っている。

 だからこそ、子供達ジャックは大いに笑い楽しむのだ。儚い夢を何時までも忘れない為に、楽しい時間ゆめこそが最も美しい宝だと理解しているから────…………





 ……────そして終わりがやって来た。

 楽しい夢の終わりは無情にも訪れる。

 万物に永遠はなく、必ず終わりがあるものだ。終わるからこそ次がある。寂しい終わりがあるから、明るく楽しい始まりが訪れる。

 だから寂しくない、涙は絶対流さない。


「とっても楽しかったのだわ!

 お姉さんは魔法使いさんだったのね!

 愉しい夢をありがとう。わたしたちを見てくれてありがとう!

 いつかまた、楽しい夢を踊りましょう!」

「さようなら子供達ジャック

また会えることを楽しみにしていますよ」


 子供達ジャックはとびきりの笑顔と共に別れを告げる。彼女リブラは優しい笑みと共に別れの言葉を残し、元の世界いばしょへと帰っていったのだ。









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hello.ジャック メイルストロム @siranui999

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