「天命は、人の営みのうちにある」。そんな人の営みを見つめてきた者の物語

話数にしてたった30話、文字数にしてわずか9万字ですが、1600年の歴史をめぐる大河小説です。

皇族に生まれながら地祇(ちぎ。吸血鬼)となった青年・稀梢(きしょう)は、不老不死の肉体を得、生まれた一族の王朝が滅んでも、その後のあまたの興亡を目の当たりにしても、そして最後の帝国を見送っても、ただそれを史書に書き留めていくだけで、実質傍観者として生きることになります。

最初は人間の起こす事件事故に一喜一憂し、生きている人々に手を貸したこともあった稀梢ですが、やがて悠久の時を生きる存在として浮世を離れていきます。この境地は悟りを開いたといえるかもしれません。しかしその変化が読者としては切ない限り。

そういう流れを時系列に沿ってではなく稀梢が思い出すままに書き綴られていくのですが、読んでいて混乱することもなく、ある種の謎ときのようなおもしろさもあり、私は30日間夢中で追い掛けさせていただきました。

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