壊れそうになった青年と、名前のわからない幽霊の自分探しの一ヶ月。

 主人公の旬は、ブラック企業で働いて会社を辞め、心療内科にかかっていたところ、伯母のすすめで彼の祖父母の家の管理人として住み込みで働くことになります。
 その家への道すがら、不思議な声を聞いた彼の前にはなんと四十がらみの男性の幽霊が現れて——?

 過酷な日々を送っていた青年が、自身の名前も覚えていない幽霊に出会ってしまい、彼の名前を思い出して欲しい、と依頼され、少しずつ自分の記憶と幽霊さんの素性を探りながら物語が進んでいきます。

 旬くんの過去は、働く人ならもしかしたら一度は経験したことがあるかもしれないようなもので、読んでいて辛く感じてしまうこともあるかもしれません。けれど、彼の伯母さんをはじめ、謎の幽霊さんも従兄弟の青年も皆やさしく、少しずつ彼の心の傷が癒やされていくのを見守る読者としてもほっとするとともに、幽霊さんの素性がますます気になっていきます。

 なぜ幽霊さんは旬の前に現れたのか。そしてその結末は……。

 都会で孤独や寂しさを感じる人にも響く、少し切なくて、けれどとても(生)温かい幽霊さんと青年との心温まるヒューマンドラマでした。

 おすすめです!

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