2-3 不意の再会

 また、同じ夢である。芸がないと笑い飛ばして欲しい。

 ただ、残念ながらぼくの夢は幼馴染に支配されているのだろう、ぼくの体は小学生のあの頃に戻り、秘密基地の中で本棚の隣に座る幼馴染の君を見つめている。


 秘密基地の中に本棚を持ち込むほど、ぼくたちは物語が好きだった。

 最初は君を秘密基地の中に留めておくために、ぼくが本を持ち込んだのだ。一緒に読み感想を言い合う。その時間君は確実にぼくと一緒に居てくれて、秘密基地の中に君が居る。


 だからぼくは、本を持ち込んだ。そして、君も。


 しかし、残念ながら持ち込める本には限りがあった。小学生のぼくらの、外で使えるお金には限界があるからだ。

 もちろん、同じ物語を繰り返し読むこともしたのだけれど、子供の頃の好奇心は留めなくて、何十にも繰り返すのは難しい。だけど君のことを離したくはなくて、どうにかできないかと考え抜いた先にぼくは、自ら物語を書くことにした。


 つたない文章と崩れた文字で、余ったノートに物語をつづる。


 初めはあまりにも上手くできないものだから、ベッドにノートを投げ出したことだってあったと思う。それでも書き上げたぼくは、いの一番に君へ見せた。


 ドキドキしたよ。だって、君があまりにも真剣に読んでくれるものだから。おもしろくなかったらどうしようとか、おかしい部分があったらどうしようとか。とにかく心臓がバクバクと音を立てていて、ぼくは柄にもなく正座し両拳を膝に乗せて君が読み終わるのを待った。


 たっぷりと時間をかけて君は物語を読み終えると、静かにノートを閉じた。感想を求めるぼくの瞳を見て、君ははにかんだんだ。


 それが始まりだったんだろうな。

 ぼくは物語を作るようになり、必ず君に読んでもらうようになったのは。


 そして読み終わり、ぼくに感想を求められると君は必ずはにかんで見せる。はにかんだ時白桃のような頬がちょんと上がるのが好きだった。そして、はにかんだ後必ずぼくの名前を呼んでくれることも。

 好きだったはずなのに、


「……たん」


 どうしてもその声にもやがかかっていて、聞き取れなくて、聞き返そうにも夢の中のぼくに夢を見ている大人のぼくは干渉出来ない。無実の罪で牢屋に捕まっている囚人のように必死に叫んでみるけれど、幼い自分は聞く耳を持っていない。


「……たん」


 もう、良い。もう、呼ばないでくれ。

 聞こえない声を求めるほど、むなしいものはない。


「……たん」


 だから!


「てったん」

「……っ!?」


 聞こえた。

 はっきりと今、ぼくの名前が呼ばれたのを、この耳が聞いた。


 そのことをはっきりと認識した瞬間、頭の中にかかっていた靄が晴れていく。

 靄が晴れていくと同時に、意識は少しずつ覚醒していって、残るはまどろむ視界だけ。


 ぼくはそのまどろむ視界を手でこする。

 こすったはずなのになぜかまどろみが残っていて、目の前に立つ人が、夢で会っていた初恋の幼馴染とひどく面影が重なった。


 それもそうだろう。

 だって、目の前に立つ人物は紛れもなくぼくの初恋の幼馴染。


 そう、それはあまりにも酷い、不意の再会だった。

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君と本棚を一緒にしたい 在原正太朗 @ariwara0888

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