2-2 夢の理由
「変なこと聞きますけど、マスターって夢の中に昔会っていた人が出てくることとかあります?」
「と言いますと?」
「いや、なんか最近妙に幼馴染の夢を見るんですよね」
それも初恋の。と言うのは流石に恥ずかしくて口に出せないけれど。
「そうですねえ。私はありませんが、聞いたところによると夢の中に現れる人というのは、夢を見ている人に会いたがっているとか」
「……それはないですよ」
「はて。何故でしょうか?」
「ははは。だって、自分の夢に出てくる人は、自分に何も言わずに離れていったようなやつですよ。それも十年以上も前。今更会いたいなんて思います?」
「うーむ。そう言われますと、その線は薄く思いますが」
マスターはそう言うと困ったように右手で
「お相手の方が会いたくないと思っているのなら、白峰さんが会いたいと思っているのかもしれませんね」
「ぼくがですか?」
「ええ」
深く頷くマスター。そのため思わず受け入れそうになったけれど、ぼくは首を横に振った。
酷い別れ方をされた幼馴染に仮にももう一度会いたいと思っているのだとしたら、相当なものだと思うからだ。
「あはは。こんなこと聞いていたら、せっかくのお酒もまずくなりますよね」
そう言ってぼくは質問したことも忘れるように、二杯目のモヒートをビールをぼくはビールを飲むように胃の中へと流し込む。
「白峰さん?」
「何ですか……マスター」
「いえ、かなり眠そうにしていますので」
「そんなこと……ないですよ」
とぼくは上手く発音できていない声でマスターの言葉を否定した。
だけど、実際はマスターの言う通り、ぼくの
しかしぼくは、必死に瞼たちが会うこのが無いよう抵抗していた。
「眠るのが、嫌になりましたか?」
「んー、どうなんですかね」
なんて言ってマスターの質問に対しはぐらかしてみるけれど、嘘だった。本当は嫌だった。
淡い初恋の物語。それだけを聞けば美しくも魅力的にも聞こえるのだろう。しかし、ぼくの夢は失恋の物語。それもひどく振られてしまった話。そんな物語を何度も夢に見て嬉しい人間なんていないだろう。
だからぼくはここ一週間くらいだろうか、できる限り寝る時間を遅くしたり深酒をしたりして熟睡するようにしていた。それがいけなかったのだろう、ぼくは顎を上下に揺らし、誰から見てもすぐに眠ってしまいそうな態勢に入っていたのだ。
「ここで眠らないで下さないね。風邪を引いてしまいますので」
「あはは。流石に寝ませんよ」
なんて言うくせに、ぼくはものの見事にカウンターに突っ伏して眠りに入ってしまったのだから、マスターはさぞ呆れたことだろう。
そんなマスターを呆れさせたぼくは、例を見ずに夢を見るのだった。
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