第9話 ジジイ、迷う

 寝て起きたら2回炎上していました。骨まで消し炭になるように念入りに焼くのは止めてもらいたいんですけど……俺だからしょうがないね。ちなみに燃えた理由は結菜の立ち絵の見た目と値段らしい。両方殆ど俺関係ないのはネットの闇を感じた。


 にしても、マジでアフィレント先生は無料でこの立ち絵を俺に渡してたなんてなぁ……これもう俺の責任じゃないでしょ、知らなかったんだぜ? 確かに会社に確認取らなかったのは不味かったけどもうどうしようもないじゃんこんなの。


 あと昨日、日本各地で不審な死体がたくさん見つかったそうです……お、俺は関係ないな! それはそうと、起きてからまた体が重くなったんですよねぇ……あれ? 疲れ憑かれてるのかなぁ?


「そんなわけ、ないか……」


 昨日見たのは俺の弱い心が見せた幻影であって夢だ。まさか俺の夢の中に結良が入り込んで俺に取り憑いたなんてこともあるまい……一応近いうちに、同級生で住職の寺沢に見てもらうか。リアル寺生まれのTのあいつなら何かわかるかもしれんし。


「っと、確かこの辺だったと思うんだがなぁ……」


 下らない思考を切り上げて周囲を見渡す。建物が大量に並んだ様はまさにコンクリートジャングル、建物群は普段家の周辺から見える木々よりも鬱蒼としている……はい俺は今、少々……失礼嘘ついた、かなり迷っている。


 いや、マジでこの辺りビルが多くて現在地のピンが定まらないのだ。よって自分が何処に居るかも解らないため滅茶苦茶迷っているのである。はっはっは! どっちが北か南かもわからないぜ!


「……どうすっかなぁ」


 面接のときは電車で来たからか迷わなかったが、残念なことに今はバイクである。こんなことなら電車で来るべきだったなぁ。


 一応担当さんに迷ったとメッセージを送っておいたけど反応はないし……とりあえず走り回っておくか。と、いう訳で止まっていた道端におさらばして走り出す。大体の場所はわかってるんだ……だが本当にだいたいなんだよなぁ。


 っと、赤信号はしっかりと停止……これを怠って事故った嫁を知ってるからな……なんでトラックに轢かれて無傷だったんだろ。なんならトラックの方がフレーム歪んでたらしいし。


 それはともかく。


「「はぁ、ぶいくらの本社ってどこなんだろ……?」」


 パッと声が聞こえた方を見れば、同じくこちらを見ている……高校生くらいの女の子と目が合った。もしかしなくても今の声にすげぇ聞き覚えがあるぞ……具体的に言うと炎上に巻き込んだ覚えがある。だが落ち着け俺、まだ本人と決まったわけじゃない。


「えっと……あ、あなたもぶいくらに行こうとしてるんですか?」

「……この辺を走るのは初めてでね。いやはや、恥ずかしい限りだ」

「私もなんです……はぁ、どうしようかなぁ……遅れちゃう」


 うん、この声聞けば聞くほど聞き覚えがあるなぁ。敬語を使い慣れてない感じがするあたり普段からあんな感じなんだろうなぁ。眩しい。


 ……とりあえず炎上に巻き込んじゃったし土下座するべきだろうか? いや、こんな往来のど真ん中で土下座しようものなら即刻お巡りさんだろう。もうお世話にはなりたくないんだよ俺は……確か通算1000回を超えたところまでは覚えてるんだ、俺。


 ってありゃ、いつの間にやら担当さんから連絡が……バイクを端に寄せてと。なんじゃらなんじゃら……うっわ、担当さんの絵可愛い! 絵付きで道案内書いてたから返信が遅かったのか……ドジっ子かな?


「うぅ……せめて道案内付きの地図でもあればなぁ」

「え、スマホに送られてきてるけど……?」

「……充電し忘れちゃって」


 うーんアホの子。可愛いな孫ポイント高めだな。


「……あとでセクハラとか言わないなら後ろに乗るかい?」

「ええ! 良いんですか!? 乗ります乗ります!」


 食いつきが良いぞこの子……俺が少しでもうそをついているという可能性を考えなかったのか? もし俺が不審者だったら誘拐して……ちょっと待て、俺って傍から見るとすげぇ不審者では?


 …………よし、さっさと行こう。考えるのは止めだ。


「じゃあ、ヘルメット被って俺に捕まって……しないと思うけど体重移動は合わせてね?」

「はい!」

「元気でよろしい、それじゃあ出発だ」


 幸いにも青信号だったのでそのまま走り出す。気分はさながら複座式の飛行機パイロットだ……さながらマーヴェリックの方が分かりやすいかな? F-14はDよりもAの方が好きなんだよなぁ。


「えっと……その」

「お爺さんでいいよ」

「あ、はい。お爺さんはどうして本社に用があるんですか?」

「……気付いてないのか」


 やっぱりアホの子か……俺の声って割と特徴的な声してるんだと思うんだけどなぁ。あと普通に考えて、この見た目のジジイでぶいくら関係者ってだけで分かると思うんだけどなぁ。


「えっと、気付いてないって?」

「はははっ……1期生と3期生で結託してコラボにぶち込まれたんだけど……気付かない?」

「えええええええええ!? き、綺羅島さん!?」


 うん、この子叩けば鳴るタイプの面白い子だわ。不発弾で爆死した同級生の田中君にそっくりだわ、キレて山の中に入って俺達の目の前で爆死した田中君……ごめんなぁ、俺達のせいで田中君は……っと、今はそんなこと考える気分でもないな。


「はい、それはそうと炎上に巻き込んですいませんでした……後で土下座するんで勘弁してください」

「えっ!? いや、別にいいですよ!! あれは私にも原因がありましたし……ね?」


 ……この子、可愛いな。なんというか健気って感じがする。絶対学年どころか学校のマドンナだろうなぁ。顔も可愛い系だから最近の高校生の好みドストライクだろうし、優しいし。童貞は好きそう。


 ん? なんか首が締まッ!? 違うんです結良さん別に俺の好みとかは一ミリも思ってないんで首から手を放してくださいマジで事故るんでッ……! 本当に浮気とかでもなく一般論なんですよマジでお許しをぉ……!!


『……許す』


 ありがたき幸せェ!!


 ……ふぅ、幻聴と幻肢痛か。いや、これは幻肢痛か? 幻肢痛モドキか。とにかく色々とヤバいから明日……いや、帰り道に同級生の息子がやってる精神科があったはずだし今日行くか。


 なんやかんやいうけれど、幽霊なんて居る訳無いしな……精神病判定無かったら寺に行きます。俺、神道だけどね。文絵と言い俺いつか宗教関連でも炎上しそうだな。


「……集合時間まで10分か、余裕をもってつくように少し急がないと」

「10分前……え、ヤバくないですか!?」

「5分もありゃ着くから5分前行動はできるよ」

「うわー……5分前行動とか言われたの小学生以来ですよ……」

「俺も言ったのは自衛隊時代以来」

「自衛隊だったんですか!?」


 自衛隊だったんだよ~……どこに所属してたとかはちょっと言えないけど。言ったら多分戸籍ごと消えるんじゃないかな? さすがに無い…………か?


 ……あ、遅れそうだな飛ばそ。




■□■




「っと、着いたよ」

「うっぷ……ゔん゙でん゙あ゙ら゙い゙で゙ずゔゔゔゔゔゔゔ!!」


 女の子Vtuberが仮に配信で出そうものなら即刻音MADが作られそうな声を出すんじゃありません! 原因俺だけど! 近道とか言って未舗装の道を駆け抜けた俺だけど……道交法とか知らねぇし。


 金とコネは腐るくらいにはあるから交通事故までならもみ消せなくもないんだよな……まぁ、しないけど。私は善良な日本国国民ですからねー。


 いや、俺が善良な日本国民なわけがないな。善良だったら多分この子は今ゲロ吐きそうになってない。このくらいの運転なら戦闘機の変態機動よりは絶対楽だと思うんだが。それ言ったらおしまいか。


「はい、降りて降りて」

「うぅ……分かりました……えっと、ありがとうございます……ちなみにお名前とかって……」

「北島文博……まぁ、これからは良く関わるんじゃないかな?」

「ありがとうございました、北島さん! ……なぁんか聞き覚えがあるなぁ」


 そうです、綺羅島です……流石に往来では言わないけどな。危機管理はしっかりしないといけないから……危機管理しないで社会的にも物理的にも死んだ奴を何人か知ってるし、南無南無。


 あ、自動ドアにぶつかってやんの……鳩かな?


 にしても彼女、元気だな……ガラス越しでもハッキリとあいさつが聞こえるよ。きっといいご両親に恵まれたんだろうな、社員さんも思わず笑顔って感じだ……まっすぐな子を見てると日本も捨てたものじゃないって思えるから好きよ。あ、もちろんLikeの方だから……勘弁してくださいッ!!


「はぁ……とっさに謝罪が出るあたり疲れて憑かれてるんだろうなぁ」


 そう一人呟き、バイクを押して駐車場へと向かう。なんとなく見上げた空には、1羽の白いカラスが飛んでいた。


 ……白いカラスってもしかしなくても大発見では?



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名前:雪山ゆきやま レイ

年齢:秘密

種族:人間?

好きなもの:涼しい場所・かき氷・酒

嫌いなもの:火・暑い場所

趣味:料理

絵師:百合を作って愛でたいマン


 人間(自称)の女の子? とても暑がりでよく溶けちゃうと言っているが人間らしい。自称女の子、やけに古い時代のことも知っているが女の子である。誰が何と言おうと女の子である。

 暑いのは苦手だが熱燗は好きらしい。




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