第2話 釣るは魚、釣られるはアンチ

 初配信の翌日、現在朝の……5時30分。今日も夜から配信の予定だが、朝から釣りに来ている。寝落ち配信とかいうのを意図せずにしてしまいそうだな……まぁ、眠いのは耐えられるし大丈夫だろう。


「お、文ちゃん今日も早いねぇ。釣れてる?」

「ん? ああ、誰かと思えば茂ちゃんか。今日はアジが釣れよるから夜はから揚げにしてビールでも飲むわ」

「いいねぇ。隣良いか?」

「構わんよ」


 30分ほどサビキでアジを釣っていると釣り仲間の茂ちゃんがやって来た。最近人と話す場所がホームセンターか釣り場しか無いのちょっと人間として不味いかもしれない。他のVtuberの方とコラボとかしてボケ防止したい限りである。


 あ、でも女性のVtuberと男性のVtuberがコラボすると不味いんだっけ? なんだっけ、ペガサスかユニコーンだかがヤバいらしい。どこぞのロボアニメか?


 等々、他愛もないことを考えたり、茂ちゃんと雑談をしながら釣りを続ける。その間産卵準備に入った大き目のアジやサバが釣れる。春のサバは旬を過ぎてるからそこまでおいしくないんだよなぁ……まぁ、それをおいしくするのが俺の仕事ってわけだが。


 3時間ほど雑魚を釣り続けていると、急に茂ちゃんの竿が激しく荒ぶる。


「うおっ!? デカい引きだ! 文ちゃんタモ取ってタモ」

「よし来た! 俺が掬うから茂ちゃんは上げろ!」

「了解っ! ッ……こぉんの! なんつう引きだ! こりゃヒラメか!?」 

「ここで刺身にできるやつなら刺身にしたるから頑張れ!」

「いよっしゃ!!」


 釣り糸が縦横無尽に動き回り竿は大きくしなり震える。これを見るに根掛かりという訳でも無さそうだ。これで根掛かりだったら多分、大地震が起きる……というか起きてる。


 糸を見ているとふと海中に光が見えた。よく目を凝らすと海中で僅かな日の光を反射した魚がキラキラと光っている、だいぶ暴れてるな。あれはハマチ……いや、大きさ的にブリか? ……春にブリ!?


「茂ちゃんブリだ! 春なのにブリだぞブリ! しかも80センチは固い!」

「ブリって春だぞ今! って言ってる場合じゃねぇな、いよっこらしょぉぉぉおおおっと!!」


 茂ちゃんによってザッパァンと勢い良く釣り上げられたブリをタモで捕らえる。うっわ振動がやべぇぞこれ! 変な体勢でやってたら腰をやるどころか海に落っこちてたかもしれないな。


「よっしゃ! 上げるぞ!」

「了解っと……うっわめっちゃ暴れてるな」


 網を上げ、ブリを堤防に上げる。身割れするとまずいので地面に置いた瞬間に持ってきていた魚を絞めるためのアイスピックを取り出す。


 暴れるブリのエラの辺りを左手で抑え、右手に持ったアイスピックで脳を突く。うまくいっていれば……よし、死んだな。


「文ちゃんすげぇな……あんだけ暴れてたのに一突きって……」

「大事なのは落ち着いて脳を狙うことだな。ちょっと待ってろもうちょっと処理して捌く」


 よく魚の血を抜くときにエラと尾を切る人が居るがあれは良くない。血圧が下がって毛細血管から血が抜けなくなるからだ。正しくはエラのところの骨を切るだけの方がよく抜ける。


 と、いう訳でナイフを取り出しエラの中に突っ込み、骨を断ち切る。そうすると神経に傷が入り、ビクンと跳ねた後に勢いよく血が噴き出る。


「……粗方抜けたか?」

「殺人現場みたいになってるぞ……」

「服につかんようにせんとね。よいしょっと、最後に神経締めだな」


 ナイフで尾を断ち切り、取り出したワイヤーを骨の上にある神経部分に突き刺す。奥に進めるたびにブリが暴れるが、奥まで入れると動かなくなる。


 試しに何度かワイヤーを出し入れするがブリはもう微動だにもしない。せっかくだからと大きさを計測するためにメジャーを取り出して合わせる。尾を皮一枚で残しておいてよかった、おかげで測りやすい。


「……よし、下処理終了っと。大きさは……89.3cmだ」

「毎回思うけど文ちゃん手際良すぎじゃね?」

「そりゃあ調理師免許持ってるし。んで、季節外れのブリだが……多分刺身は旨いぞ、どうする?」

「食うに決まってる!」


 アイスピックとナイフ、ワイヤーとメジャーをしまいながら聞くと大きな声で返事が返ってくる。まぁ、新鮮な魚が食えるってのも釣りの良い所だし。

 さてと、背側と腹側それぞれ切り落とし持ってきていた真水で洗ってからまな板に置く。もちろん消毒した上で真水で洗ってある。衛生管理は大事だ。


「俺もこの時期のブリは初めてだからとりあえず背と腹から身を取ったが……」

「背と腹で何が違うんだ?」

「背には身の旨み、腹には油の旨みが詰まってるんだが……春だからか腹の方はだめだな」


 包丁で刺身を薄く切り、紙皿に盛り付けていく。ブリの刺身にはごま油と塩が合うので両方を取り出し、ごま油を小皿に入れて塩は薄く振りかける。


「一口だけ……よし、味付けOKだ。と、いう訳でブリの刺身だ」

「おお! めちゃ美味そうじゃんか!」

「こっちが背側でこっちが腹側な。多分背側の方がおいしいと思う」

「ほぉん……っと、そんじゃ、いただきます!」


 手を合わせてから割り箸を割り、まずは背側の方の刺身を取りごま油に少しだけつける。そして一気に口へ。


「くぅぅぅぅぅぅううう! 美味い!」

「そりゃよかった。ちゃんと絞められてたみたいで嬉しいわ」


 茂ちゃんが美味しそうに食べている横で包丁やナイフ、アイスピックやワイヤーを真水で洗い流してしまう。いちいちしまっておかないと不潔だし無くす可能性もあるからな。


 さてと、どうせなら俺も何か一匹くらいは大物を釣り上げたいなぁっと。ブリとまではいかないからヒラメとか……煮付け好きだし。




■□■




「っと、ふぃ~大漁だったなぁ~」


 その後、13時まで釣り続け合計300近い魚を釣り上げた。釣れたのはアジとフグとサバ……まぁ、餌代ガソリン代の元は取れたな。結局あの後は特に大物は釣れなかったので運が収束した結果なんだろうな、あのブリは。


 魚を冷蔵庫に入れリビングのソファでのんびりとしているのだが……この無音が辛いな、猫とか飼おうかなぁ? いや、魚とか? ……無音が寂しいのに魚ってのもおかしいか。


 まぁ、今度釣った魚を何匹か飼育するとしよう、フグとか飼うの楽しいって聞くこともあるし。


 さてと、そろそろ昼食作るとしようかな……どうせなら料理した写真をSNSに投稿してみたいなぁ、ここ数年家族以外から感想聞いてないし。先輩方にも料理を投稿してる人とか居たし……担当の人に投稿して良いか連絡してみるとしよう。


「【綺羅島:突然すいません、自分で料理したものの写真をSNSに投稿することは可能でしょうか】と、こんなもので良いか?」


 送信できたことを確認する。よし、返信待つ間に料理するとしよっと……あれ? 返信が来たぞ? 昼食時だからしばらく返信に時間かかると思ったのに……休め? 担当さん適度に休め?


【木村:反射で顔や手が映らないようにした写真なら良いですよ】


「なるほど……【綺羅島:ありがとうございます。昼食時にすいませんでした】と」


 それじゃあ今日の昼食は少し張り切るとしましょうかね。献立は……アジの唐揚げとフグの刺身にするか。


 で、今回釣れたフグはクサフグ、こいつは内臓と皮に毒が含まれているため可食部は身の部分だけだ。それを踏まえて調理していく。


 まずは冷蔵庫から20㎝程のクサフグを取り出し、捌いて行く。慣れたもので1分かからずに内臓を取り出し皮も剥ぐことが出来た。


 クサフグの毒は極めて毒性が強く、その中でも肝臓は2gもあれば簡単に人が死ぬ。なのでしっかりと内臓と皮は3枚の袋で包み、しっかりと密閉してからゴミ袋に入れる。


「いよっし……」


 しっかりと毒物を処理した後は包丁と身、まな板と手をしっかりと洗ってから身に刃を入れて刺身にしていく……しゃぶしゃぶも美味しそうだし半分は冷蔵庫に保管しておこう。

 フグを盛り付け、次はアジを揚げていく……やばいやる順番間違えたな、刺身を後にするべきだった……とりあえず刺身は冷蔵庫に入れておく。


 さてと、アジだアジ。頭の上の部分を切り落とし頭を引っ張ることで内臓ごと頭を外す。あとは腹を切り開き中身を洗う、あとはキッチンペーパーの上において水分を取っておく。これを3回繰り返す。


「……腰が痛くなって来たなぁ」


 歳を感じつつ水分を取ったアジに塩をかけ一旦冷蔵庫で冷やす。この間に鍋に油を入れてIHの火力を最大にする……IHって本当に便利だよなぁ。


 10分程して、冷蔵庫の中のアジを取り出して片栗粉をまぶす。そうしたらアジを油に入れ、急いで蓋を閉める。油が跳ねると危ないので冗談抜きで蓋は大事だな、うん。


「完成っと……」


 大き目のアジなので少し長めに7分計り、IHの電源を落とす。そうしたら急いで網付きのトレーに乗せて油を落とす。


 そうしたら盛り付けて完成だ。しっかりと反射しないように艶の無い陶器の皿を使っている。昔、陶芸体験で妻……結良と一緒に作ったお揃いの皿。自分の作った皿は歪で結良のは綺麗な円だ。性格が出てるなぁ……。


「さてと、リビングの方がきれいに撮れそうだしそっちで撮ろうかな~っと」


 リビングの机の上に料理を運び、光がよく当たるに置いてから写真を撮りSNSへと投稿する。



==SNS============

 綺羅島 博文  @Vclub_3rd_kirashima


#ぶいくら #綺羅り動画視聴の旅

昼食は今朝釣ったアジの唐揚げとフグの刺身です。

【画像】


――――――――――――――

 アフィレント  @ekakisuko_ninjha

返信先:@Vclub_3rd_sun

美味しそう……ウッ、ダイエットしてるのに!

――――――――――――――

返信先:@Vclub_3rd_sun

フグ刺し……ジジイフグ捌けるのか?

――――――――――――――

返信先:@Vclub_3rd_sun

ジジイがこんなの作れるわけがないんだよなぁ()

――――――――――――――

返信先:@Vclub_3rd_sun

誰に依頼したんやろw

――――――――――――――

返信先:@Vclub_3rd_sun

美味しそうなの草

――――――――――――――

返信先:@Vclub_3rd_sun

すごい! 美味しそう!

==================



「……好評、かな? ……うん、美味しい」


 フグ刺しを食べながら反応を確認すると、おおむね好評といった具合であった。やっぱり誰かに褒めてもらえるっていうのは嬉しいなぁ。


 あと、なんというか生で食べるとフグが河に豚と書くのかがよく分かるな、生の豚肉と似たような食感だ。まぁ、両方とも適当に食べると当たって死にかけるんだけどな! 両方当たったことがある俺は詳しいんだ。


「うっ…………よし、忘れて配信までのんびりしよっと」


 食事っていうのは、嫌な事は忘れて美味しく食べるのが一番いい。せっかく命を頂いているんだから気持ち良く頂かなければ失礼ってものだ。


「くぅ~……美味いなぁ!」



==リプライ============

 ライカ・レージス@ぶいくら3期生  @Vclub_3rd_lica

うわぁ!美味しそうです~!食べてみたいです!

==================

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る