第3話 ジジイの勝利である(大本営発表)

 食事を終えて食器を洗っていたら軽く祭りが……いや、炎上していました。公式サイト大丈夫だろうか。田代砲とかF5攻撃されてないかな? 俺ならやってるしあいつらならやる。


「んで、なんで炎上したんだろ……」


 発端は……料理のツイートか? いや、でもリプライを見る限り問題は……問題は……レージスさん? ああなるほど、要するに『てめぇレージスさんに褒められたからって調子乗ってんじゃねぇよクソジジイ』って事か。理不尽!


 ……うん。とりあえず、配信のタイトル変えておこっと。こういう時はネタにした方が絶対に面白いしね。あとネタにすればするほどアンチの勢いが落ちる。昔、店で新人がやらかした時もネタにしてたらすぐに忘れられたしな。




■□■




【ゲーム配信】男性V炎上RTA走者です、よろしくお願いします【FPS】

○同時接続者数:137人



==コメント欄============


 :タイトル草

 :タヒね

 :タヒねニキネキ今日も全開やな

 :炎上商法ってマジ?

 :なんで炎上するんだよそもそも

 :同期にSNSで絡まれたから炎上した

 :草

 :消えろクズ

 :概要欄に書いてあるゲームが滅茶苦茶マイナーなのジジイだわ


===================



 配信開始まであと5分。今日も今日とてそこそこの速度で流れるコメント欄を見る。まぁ、初配信と変わらずって感じだろう。


 ただ評価が酷い。低評価が200……あ、300になった。初っ端から炎上するってまずいのでは? まずいんだろうなあ。


 なんだっけなぁ……”ぶいくら”とは違う会社の男性Vがなんかやらかしたことは担当さんから聞かされたんだけど、詳しくは知らないんだよなぁ。


 なんか「北島さんは大丈夫ですよ」とは言われたけれど……さすがにSNSで会話する程度のことではないと思うけどね。俺なんかやっちゃいました? ってならないようにしないと。ここはなろうじゃなくてカクヨムだし。


「っと、もうそろそろか」


 すでに配信の準備は終わらせているので、あとは配信開始ボタンを押すだけだ。一応昨日と同じように声を出して動きと音量を確認する。最終チェックは本当に大事、自衛隊時代に嫌と言うほど思い知らされた。うん。薬莢1つであんなことに……やっべぇ、手の震えが止まらねぇよ……。


 さてと、時間になったな。相変わらず緊張しながら配信開始ボタンを押す。昨日よりはマシだけど別の緊張というか恐怖が混ざってるからなぁ……許して教官せめて同僚だけは……。


「……っと、どうも皆さんこんばんは。デビュー後19時間34分で炎上した男です」



==コメント欄============


 :草

 :きちゃああああああああああああああ

 :タヒね

 :最初から草

 :これ初配信開始から例のツイートまでの時間か

 :きた!

 :炎上ジジイ

 :デビュー前に炎上したVも居るから()


===================



「さてと、今回私が走らされましたRTAのレギュレーションをご紹介いたします」


 プロフィールを表示したときのようにレギュレーションの書かれた表を表示する。ちなみに自作である。そして無許可である。


「こちらに書かれている通り、”企業勢”と”男性V”が走る上の条件です。そして、初配信の配信開始ボタンを押すと同時にタイマースタートです。それで完走した感想としましては、まだ走り切った人が私しか居ないので是非とも皆さんにも走って頂きたいところですね!」


 ここまでほとんど一息で喋る。こういうのは勢いが大事なのだ。



==コメント欄============


 :タヒね

 :草

 :調子乗んな

 :走り切ったらヤバいんだよなぁ……

 アフィレント:なんかあったらお母さんに任せなさい!

 :オス豚氏ね

 :wwwwwwww

 エヴォ・リヴィア:新人が炎上したと聞いて


===================



「あっ、これはこれはリヴィア先輩。ようこそお越しくださいました」


 ”エヴォ・リヴィア”先輩……昨日配信に来てくださった”コン・フォクシズ”先輩と同じぶいくら1期生であり、現状俺以外唯一の男性Vだ。


 なんか調べたところによるとこの会社2人ほど男Vが辞めてしまったらしいね。まぁ、確かにこんな簡単に燃えてたら精神も病みそうだしなぁ。実際今もアンチコメント多いし。でもアンチが増えれば増えるほど同時接続者数が増えるんだからアンチも馬鹿だよなぁ。


「さてと、今日は先輩に見られながらもタイトル通りFPSゲームをやっていきます」



==コメント欄============


 :無理だろ

 :タヒね

 :くたばれ

 :歳考えろ

 :おい70代?

 :死にまくるんやろうなぁ

 :調子乗ってんじゃねぇぞクソが

 :動体視力……ですかねぇ


===================



「はい、見ての通り自分は歳を取っていて動体視力がそこそこ落ちています。なので最近流行りのスピード感のあるFPSではなくもっさりとしたリアル系FPSをプレイしていこうかなと思います」


 プレイするのは”Real of War ~WWⅡ~”である。PVP専用のオンラインFPSであり、10年程前に発売されたゲームだ。独ソ戦と日米戦の様々な戦地で戦うことが可能という圧倒的俺得ゲームである。


 銃弾の当たり所によって即死したり失血死したりすることがあったり、高い所から降りると足を折ってしまうし。腰撃ちでは全く弾が当たらないし、近くに着弾すると視界がブレて狙いが定まらなくなったり……めっちゃリアルな戦争FPSである。親父曰く匂いあったら完璧だそうだ。


「個人的にこのゲームの好きなところは機関銃の砲身を取り換えられる所と万歳突撃があるところですね。特に万歳突撃は大人数でやるほど強力になるのは面白いシステムだと思います」



==コメント欄============


 :マジのやつじゃん

 :ガチのやつ

 :これすぐ死ぬから嫌い

 :リアル系FPSだって!?

 :タヒね

 :くたばれ

 :きえろ

 :……あれ?ジジイって戦時中に産まれてね?


===================



「それでは、早速やっていきましょうか」




■□■




「さっそく1戦目ですね。私が選択したのは日本軍のLIGHT MORTAR《軽迫撃砲手》ですね。武器は三八式歩兵銃サンパチシキホヘイジュウ八九式重擲弾筒ハチキュウシキジュウテキダントウ、そしてグレネードですね」


 最初のマップは日本軍の攻勢……右のビルは向こうから狙いやすいから左のビルに行くか。


「そういえば、なんか私の炎上に同期の方巻き込んじゃったじゃないですか? それで責任取ろうと思って蔵から伝家の妖刀出してきたんですけど、配信の時間が来たのでとりあえず配信を始めたんですよね」



==コメント欄============


 :切腹!?

 :当たり前のように高い場所に行ってるな

 :タヒね

 :バカと煙は高いところが好きだからな

 :ハラキリwwwww

 :消えろ

 :草

 :妖刀……?


===================


「そう、妖刀ですよ。戦時中に私の父が66人もの敵兵を切り殺した妖刀です」


 今思い返すと俺の親父本当に人間辞めてるからなぁ。


 手榴弾で掠り傷しか負わず。火炎放射をそこら辺に生えてた木で跳ね返し。1人で100人以上の米兵を殺したとか言ってたし、同じ部隊の生き残りの方が遊びに来た時も言ってたし……あとまだピンピンしてるし。人間要素どこにあるんだろうね。俺って実は半分くらい妖怪だったりするんだろうか。


「それで、とりあえず同期の方に腹を切ってお詫びをしようと――――」


 3階の狙撃スポットに入ると5人の敵兵。入り口近くの1人に構えていた銃剣、その近くの1人にゼロ距離射撃。残りの3人相手に突撃は確実に殺られるので一旦部屋の外に出て中にグレネードを投げ込む。その間に装填入口へ狙いをつけておく。


 5秒ほどして爆発音……再び銃剣を構えた状態で突入する。中には敵の死体が4つ……オールクリアと。


「っと、とりあえずスプリングフィールドとグレネードだけ回収しておきましょう。この兵科は弾薬が少ないので」



==コメント欄============


 :やば

 :!?

 :は???????

 :!?!?!?!?!?!?

 :あまりにも早い殺戮……俺じゃなきゃ見逃しちゃうね

 :調子乗んなよ

 :いい加減アンチウザい

 :!??!?!!?!??!?!?

 :すげぇ

 :タヒね

 :やっヴぁ


===================



「さてと、それでここの窓から擲弾筒を撃つとピッタリ敵のリスポーン位置に当たるんですよね。と、いう訳でここで全弾撃ち尽くしていきます」


 狙いを適当に付けて流れ作業でさっさと8発撃ち込み今度は三八式を構えて窓から外を除く。目標地点にいる敵の数は、6……いや9人か。


「ここからだと地上の味方からは見えない位置の敵が見えるので狙撃していきます。今回は9人ですね。とりあえず味方に敵の位置を共有して……じゃあ1人目」


 三八式歩兵銃で狙いをつけて1人1人処理していく。やっぱりアイアンサイトが最強なんだよな。最近のゲームのスコープはなんか気持ち悪くて使えない。でもこのゲームのスコープはリアルで好き。


 ソ連のスコープとか本当に好きなんだよな……モデルガンでも買うか。


「6・7・8……1人は味方が処理してくれたみたいですね。それじゃあ味方が占領するまで敵の後続を足止めしておきましょう。敵の足を狙うと治療不可能の傷を負ってじわじわ死ぬ可能性が高いので積極的に狙っていきます」



==コメント欄============


 :慣れすぎでは?

 :言ってることサイコやんか

 :このジジイ、ラノベ主人公みたいな動きしてたよな

 :アイアンサイトであれ当たるのか……

 :命中率今のところ90%

 :タヒね

 :もうタヒねニキネキはジジイの事が好きなのでは?

 :やば

 :やってることエッグ


===================




■□■




「おや、もうこんな時間ですね。ちょうどキリも良いので終わりにしましょうか」


 あれから10戦ほどして時刻は夜の11時である。思ったより長くやってしまったな……ハブ茶飲もっと。


「あ、そうだ。こういった目の疲れにハブ茶がよく効きますので皆さん試してみてください。あ、ハブと言っても蛇のハブではなくマメ科の植物の事ですのでご安心を」


 ハブ茶は美味い。俺は麦茶とかは飲めないがハブ茶だけは飲めるんだ……でもハブ茶ってマイナーなんだよね、悲しい。もっと宣伝してくれ。


「それでは、今日もの配信に来てくださりありがとうございました」



==コメント欄============


 :乙

 :タヒね

 :おつ~

 :俺?

 :乙です

 :俺って言った!?

 :乙!!

 :素の一人称俺なのか……

 :ギャップ萌えしたわ

 :乙です! 俺??

 :消えろクズ

 アフィレント:声がいい


====================



 ●配信は終了しました●




■□■




「……疲れたし寝よ」


 もう元気ない。ゲームしてる時は全然元気なのにやり終わると元気なくなる事あるよね。似たような現象が仕事と釣りでも起きるから結構困る。


 ……あ、Vtuber始めたって結良に報告しないとな。明日の朝にでも手紙書くか。とりあえず、今日はもう寝よう、うん寝るわ……


 ……チャンネル登録者そういえば昨日から見てないなぁ……収益か出来たら藍に何か買ってあげようっと。あ、駄目だこれ寝る―――――


「ぐへぇ……お休み、結良……」



==チャンネル============

 〇綺羅島 博文

  チャンネル登録者 841人


チャンネルアナリティクス[視聴者分布]


10代 5%

20代 13%

30代 35%

40代 32%

50代 6%

60代 7%

70代以上 2%

===================




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:綺羅島きらしま 博文ひろふみ

年齢:78

性別:男

種族:人間

好きなもの:魚・ゲーム・妻・子供・孫

嫌いなもの:特になし

趣味:釣り・ゲーム・料理

絵師:アフィレント


 愛妻家で家族思いのおじいちゃん、老後の暇つぶしにとVtuberになった。野望は収益で孫に色々買ってあげることらしい。年齢のわりに元気で活動的。

(ぶいくら公式プロフィールより引用)


解説:ぶいくら三期生の内の1人。現状ぶいくらで唯一、名前がすべて漢字のメンバーである。趣味に釣りとある通りに自分で釣った魚を調理した写真を自身の公式SNSに投稿している。また、料理もできるようで少なくともフグの調理資格は保有しているようだ。一人称は私。(2回目の配信の最後に一度だけ”俺”と言っているため、本来の一人称は”俺”だと考えられる)

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