第12話 ジジイの胃が溶けるを超えて削れる

 ”オフコラボ”という概念がある。同社であろうと他社であろうと個人であろうとVtuberが別のVtuber又は配信者と一緒に配信することをコラボという。そんなコラボの中でもオフライン、つまり実際に会って配信することをオフコラボというのだ。


 このオフコラボ、基本的にはVtuber本人の家か所属事務所で行うのが一般的である。まぁ、公共の場で配信とか炎上待った無しだしね。


 さてと、今現在……というか俺が死ぬまで所属しているであろうぶいくらの本社には残念なことに配信設備が無い。近々広いビルに移転して色々な設備を整えるつもりらしいが……とにかく今は無いのである。


 もしかしたらレンタルスタジオでも借りればいいとでも思ったかもしれないが、配信を行う時間帯は基本的に夜なので夜は使えないことの多いレンタルスタジオは向かない。故に、今オフコラボをする場合は誰かの自宅で行う事になる訳である。妥当だな。


 ……妥当だよ? でもさ、でもさぁ……分かるよ? 3人の話を聞く限り彼女たちの通っている学校の周辺はそこそこの部屋でも家賃高いだろうし、1人暮らししているらしい真白さんの家に何人も集まるには狭いのだろう。


 たださ、他の2人の家は良くないかしら!? 話を聞く限りだと3人って幼馴染なんだろ!? というか親繋がりで知り合ったらしいじゃないか君達! なら別に神威さんの家か佐村さんの家で集まればよくない? 俺は1人で惑星で空戦して遊んでおくからさ?


「というかなんで親は許したんだよ……! なんで見ず知らずの老害の家に送り出せるんだよ……ッ!!」


 リビングから聞こえてくる3人の少女達の話声をキッチンの中で聞きながら呟く。ああ、そうだよ……JK3人が家に来てるんだよ! 男1人女3人とか辛いよ! この前の1期生と3期生のコラボの時はネット上だったしエヴォ先輩が居たからまだマシだったよ?


 でもさぁ! オフラインで! 素顔で! 俺の! 家でぇ!! JK3人と一緒はもう社会的にも俺的にも無理だよ! 一発三振レッドカードだよ! そんで知り合いの刑事に自首したら「いつもの事だろ」って……結良は! 見た目が! JCだけど! 年齢は俺と10才差だヴァァァァァァァァァァカ!!!!


 お前結良が生きてた時は俺が結良と一緒に居たら8割職質して来ただろうが! お前のせいでデートが邪魔されて結良の機嫌が死ぬほど悪くなってたんだからな! しかも挙句の果てには職質の新人研修に使いやがってよ……そんなんだから結良に新人ごとまとめて道の端っこに積み上げられるんだよ!!


「クソッ! ……料理、するかぁ」


 せめてもの救いは担当の木村さんが同席していることだろうか……来た理由の建前が俺が手を出さないようにの監視で本当の理由が俺の胃痛のためらしいけど……そんなことを配慮するなら俺抜きでやってくれよぉ。別に3期生オフコラボ(ジジイ抜き)でも文句は出ないと思うんだ。


 はぁ……ぶいくら君さぁ。危機管理能力ちゃんとしようよ。


 ……愚痴はやめてお客様4人の料理を作るとしよう。4人ともアレルギーは無しで特段嫌いな食材も無し。健康的で素晴らしいね、俺とか野菜嫌いで出来れば食べたくないのに……もしかしなくても元料理人で78歳の俺が一番舌が幼いかもしれない。


 閑話休題それはともかく。今日は先日釣ったヒラメを5匹贅沢に使って料理しよう。献立はヒラメの唐揚げをメインに……そうだな、味噌汁と白米で良いかな? ヒラメで油を結構使うから味噌汁の具材は胃腸に良い物にしようかな。


 よく腸に良いのは野菜を含む食物繊維なんていうが、実は消化に良い野菜は逆で繊維質でないものが該当する。胃腸の調子が悪い時は繊維質の物は避けた方が良いことをお前らに教える。


 と、いう訳で調理を始めよう。まずは蓋を閉められる容器かジップロック(今回はヒラメを5匹も使うので大きな容器を用意した)にヒラメ1匹ごとに醤油をおおさじ3、料理酒とみりんをおおさじ1、すりおろした生姜とニンニクをこさじ1入れる。そこに下処理を終わらせたヒラメを漬けて冷蔵庫に入れて20分ほど待つ。


 漬けている間に白米をさっと洗って炊飯器にぶち込んでスイッチを入れる。次は味噌汁だ。今回は大根と人参、そしてワカメを使わせてもらう。ワカメは食物繊維多めだが……ワカメの無い味噌汁は味噌汁じゃないので入れる(鋼の意思)。


 さて、味噌汁を作って行こうか。中火で沸騰させた水に皮を剥いて短冊切りした人参と大根、そしてワカメを入れる。そうすると泡が収まるからもう一度沸騰して泡立ち始めるまで待つ。


 沸いたら適当に出汁と味噌を溶き入れる……適当は理系的な適当だからね? 要するに適している量を入れるという訳だ。今回は俺以外全員若いので味を少し濃いめに調整する。味噌と出汁を溶き入れたら弱火にして放置……ちょっとペース配分ミスったかもしれん。


 ここで大体20分経ったので冷蔵庫からヒラメの入った容器を取り出す。容器からヒラメを取り出し、キッチンペーパーで汁気を取ってから満遍なく片栗粉に塗す。5匹全部塗し終わったら、鍋の中に鍋底から5センチくらいまで油を入れ、170度に温めた後にヒラメを投入する。


 4分から5分でキツネ色になるのでそうしたら油から取り出し、油を切る。これを同時に5匹分やることによって時短する訳ですね。おかげで5倍以上に大変だったけど。


 最後に、炊きあがった白米と味噌汁をお椀に盛り付け。ヒラメは皿に盛り付けてと。


「完成じゃあ……」


 久しぶりにそこそこの人数分を1度に作ったからかかなり達成感がある。やっぱり誰かのために料理を作るのは素晴らしい事だ。俺の自宅でJK3人にという事を除けばだけど。


 ……うちに代々伝わる伝家の宝刀の出番かもしれないな。長刀で切腹ってのもおかしいけど……まぁ、確実に死にそうだし良いだろ。というか切腹で死ねた方が楽な可能性すらある。


 後で親父に介錯を頼まないと。




■□■




「おぉ~かっこいい~!」

「これは……F-86Fのプラモデルでしょうか? 隣のがF-4という事は分かるのですが……」

「詳しいな。ちなみにこの模型は両方とも自衛隊塗装……流石元自衛隊というだけはある」


 私がショーケースに入った飛行機の模型を眺めて感嘆していると、後ろから2人が解説してくれる。博物館や美術館に行くといつもこんな感じで説明してくれるから大助かり!


 でもなんで2人ともこんなに博識なんだろうな……戦闘機の種類とか模様とかって特段役に立つタイミングなんてないと思うけどなぁ。


「よく分かりましたね、そちらの模型はF-86FセイバーF-4ファントムの自衛隊塗装模型で正解です」

「ピェツ!?」


 いきなり耳元で囁かれた聞きなれていない男の人の声に思わず奇声を上げて振り返る。すると不思議なことに、耳元で囁かれたと思っていたけれど北島さんは私達から遠く離れた……という訳でもないけど、そこそこ離れたリビングとキッチンの境目に居た。


 両腕いっぱいの料理を持ってるから私の耳元で囁いた後にあそこまで行けるとも思わないし、そもそも私のすぐ後ろには2人が居る。


 えぇ……? こわっ。


「どうかしましたか佐村さん?」

「あ、えっと大丈夫! ……です」


 思わずタメ口で話そうとしてしまった。昔から敬語ってなんか苦手なんだよね……小学校の頃から敬語に関するテストで40点以上を取れたためしがないし。ああもう、同い年なのに敬語を自然に使える2人が羨ましいよぉ!


「あ、お料理運びますね」

「ああ、ありがとう神威さん」


 真がサッとお手伝いを買って出て、流れるように北島さんの手にあった料理を受け取って机に並べていく。


 いや……ちょっと料理豪華すぎない? 魚を丸々1匹使った唐揚げを1人1つとか凄くない? 料亭じゃん。すごい美味しそうな匂いがするし……これが無料で良いんですか?


「これは……ヒラメの唐揚げか。それに味噌汁……ちょっと女子力高すぎでは?」

「ははっ、ありがとうございます。まぁ、昔取った杵柄というやつですよ」


 ……よく考えると北島さんって無茶苦茶な経歴な気がしてきた。だって元航空自衛隊で元日本食料亭の大将で、そして今はVtuber。日本で1番すごい経歴してるんじゃないのかな? マジで。


「あれ? 木村さんはどこに……」

「あっ、木村さんならさっき電話しにお庭に行って……行ってましたよ!」

「ああ、なるほど。ありがとうございます佐村さん」

「いえいえ」

「あと、佐村さん。敬語、慣れてないなら外しても大丈夫ですよ?」


 ふと、懐かしい気分がした。こちらを心配しているようで、それでいて少し悪戯っぽく笑うその顔を昔どこかで見たことがある気がして……。


「っと、お冷も用意しませんとね」

「――あっ! 私も手伝う!」

「おお、助かります」


 あれ? なんで懐かしく思ったんだろ。まぁ、いっか! うん、敬語を外すとやっぱり楽だね。敬語なんて滅びればいいと思う……割と本当にマジで。ただでさえ敬語が苦手なのに古文の敬語とかマジで滅びれば良いと思う。


 そんな事を思いながら、お水をお料理の横に置いて行く。私もしかしたら飲食店のバイトに向いてるかもしれない……!


「あっ、木村さんも戻って来たみたいですね。それじゃあ昼食を頂きましょうか」



==SNS============

 綺羅島 博文  @Vclub_3rd_kirashima


#ぶいくら #綺羅り動画視聴の旅

今日の昼食は白米とヒラメの唐揚げ、味噌汁です

【画像】


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 ライカ・レージス@ぶいくら3期生  @Vclub_3rd_lica

返信先:@Vclub_3rd_sun

美味しかったです!

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 神威 シン@ぶいくら3期生 @Vclub_3rd_shin

返信先:@Vclub_3rd_sun

ご馳走様でした。良ければいつか料理を教えてください

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 白神 サン@ぶいくら3期生 @Vclub_3rd_sun

返信先:@Vclub_3rd_sun

非常に美味でござった

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綺羅島炎上録

1回目:デビュー時になぜか炎上

2回目:コラボして炎上

3回目:女体化して炎上

4回目:女体化モデルが無料という事で炎上

5回目:同期に手料理をふるまって炎上 (new!)

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