Episode2 クレセントの独立
2945年8月14日午前11時、日米をはじめとする先進諸国の政府機関・施設がクレセントを名乗る新興国家に跡形もなく抹消された。彼らはJSAAの目を盗み極秘で宇宙空間に適応した艦艇等の建造を行なっていたようだ。
そしてその軍事兵器の攻撃により各国の政府機関は壊滅的被害を受け、その機能を停止していた。そこで被害を受けた国々で地球防衛条約機構(Earth Defense Treaty Organization)を樹立し、「地球と宇宙を守る平和憲章」が制定されるとともに日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、ロシアの6カ国首脳が署名した。軍事委員会管轄の欧州方面軍、北米方面・南米方面軍、ロシア軍、自衛隊条約機構総隊も組織された。さらに宇宙戦に向け、宇宙開発の一環で建造していた艦艇を各国が総力を上げて完成させたとして功績を出したJSAAはオブザーバー機構という立場で再設置された。地球側は急ピッチで進めて漸くクレセント軍の艦艇数に相当するだけの建造に成功した。こうして艦艇の建造が済み、日本を除く先進諸国が推し進めている事といえば、もちろん報復の準備である。理事会に参加する日本の首脳としては、やはり報復行為に対しては慎重な姿勢を示していた。
「ミスター オオカワ、もう時代は変わりました。宇宙人と戦うと思えばいいです。」
アメリカのモーガン・スミス大統領は大川首相に声を掛ける。歴代首相がアメリカとの友好関係を慎重に築いてきた。あの攻撃で亡くなった前首相もスミス大統領と懇意にしてきた。自分の代でその関係を破綻させることもできない。大川首相は今日まで考え抜いた。この理事会で、全てが決まるのだ。新しい時代の、新しい戦争が始まるかどうかが…。
クレセント月面基地______
「システム起動、艦内に異常なし。」
士官たちの指揮により発進準備を整える艦隊がいた。クレセントの月方面総艦隊だ。彼らはルナ・フリートと呼ばるクレセント初の宇宙艦隊だ。編成された艦艇の総数は、第一から第八艦隊までの80隻に及ぶ。
「地球側は間もなく報復に打って出るだろう!我々の大志を掲げ、敵を打ち破るのだ!」
艦隊の発進を前に軍人たちを鼓舞するのはイゴール・ペトレンコ惑星連合議会議長だ。彼は先のテロ事件の首謀者でもある。彼らの目的は先進諸国との徹底的な戦争であり、その用意は整っている。と演説した。その後、イゴールは部下に合図すると再び演台に向き直り声高らかに宣言した。
「今ここに、クレセントの建国を宣言する!人類の愚かな歴史を塗り替えるのだ!」
この宣言は地球のインターネット上でも公開され、一気に話題となった。これによりイゴールの行為はテロ攻撃から戦争へと発展したのだった。開戦に際しては地球防衛条約機構の出方を伺おうという内部の意見もあったようだが、イゴール政権がそれを否定した。開戦反対派は説得に応じなければ反逆罪で投獄されるなどクレセント政府はかなり強引なやり方で内部意識の統制をしているようだ。クレセントは5つの国から議員が選出されて惑星連合議会を構成しているが議員たちはイゴールに賛同した宇宙開発企業らが推薦した者たちな訳で当然イゴールの息が掛かっている。演説が終わると士官たちは一斉に作戦行動に移る。この作戦は"リペイント作戦"と名付けられた。イゴールが提唱した歴史を塗り替えるための極めて重要な戦いだと改めて主張している。部隊は主に地球との間で戦端を開く本隊と惑星連合議会に参加せずにいる衛星企業を引き入れる別働隊だ。後者の部隊に衛星企業が従わない場合、当然占領に踏み切るだろう。クレセント軍はJSAA直轄部隊が展開していることは確認が取れているが実際のところはあまり危険視していなかった。
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