Episode6 近づく足音

クレセントから最新戦術兵器を奪取した地球連邦軍。地球連邦士官学校は、人型機体兵科に入学して間もない新米たちを、次々にテストパイロットとして最新型人型機体に搭乗させた。ウェインもその中の1人として加わることとなっていた。

「4期生諸君、今日から君たちもパイロット候補生として訓練に励んでもらう。士官学校とはいえ後方でのほほんとするような無能を育てるつもりはない!」

とはいえ教官は旧来の航空系軍人で、現在は士官学校教官としての時間以外は贅沢三昧な暮らしをしていると巷で有名だった。

それから幾度と機体を用いた戦闘訓練などを行なっていった。

NAATS(ナーツ)と呼ばれるその戦術兵器は地球でも建造された。地球連邦軍諜報部によると、これは西暦2945年のテロ事件の際にJSAA中央行政庁舎から奪取された情報を基に開発されたものだそうだ。技術者たちは地球連邦政府から"宙と平和の守護者"と言い聞かされて開発に力を注いできた。

一方、クレセントでは窮地を脱した技術者たちがブルゴーニュ議長から褒章を受けていた。彼らの他にも、先の奇襲事件で殉職した関係者らが受賞している。式典で議長は次のように述べた。

「君たちが開発したこの戦術兵器は"血塗られた宙と偽りの平和の破壊者"となるだろう!」

彼の言葉に会場は湧き立ち拍手喝采が起きた。そこに出席している顔ぶれは議長をはじめとした議会関係者、イゴール前議長に同調したスペース・フロンティア社社長のカイル・ベル、プロジェクトグラビティ社代表のニック・スカイルズを筆頭とした数多くの企業関係者だ。そして新たに加わった陸奥井蔵與(くらとも)スペースシステム・ソリューション社は唯一の日本企業だ。この企業は2年戦争時に人々の安全と引き換えに惑星連合議会=クレセントに参加した。議員定数は一番少ない彼らではあるが技術レベルは他社に劣らずで業界では注目されている。

「さて、今回の新型戦術兵器開発でクレセント軍最高司令部は満を辞して皆さんに紹介できるものが完成したと考えています。人型戦闘機体・デストロイヤーです!」

ブルゴーニュの掛け声で大型のモニターに映像が映し出される。縦横無尽に宙を駆け巡る黒と紫の機体、それがデストロイヤーだ。議長が朗々と語るこの機体には最新鋭システムが搭載されているが、詳細には触れられなかった、いや秘匿されたのだ。陸奥井蔵與スペースシステム・ソリューション代表取締役で自身が専門家でもある星崎輝明は俯き、唇を噛み締めた。

「この新システムを開発してくれた星崎社長にもこの場を借りて感謝したい。」

若干、見下すような言い方をして拍手をすると参列者も同じく拍手を送った。議長は壇上に招いた星崎にも褒章を授与した。

「議会は星崎社長と会社の功績を称え、クレセント技術褒章を授与します!」

再び会場に大きな拍手が響き渡ると、議長は星崎にハグを求めた。応じると耳元でこう囁く。

「故郷(ちきゅう)に弓を引くのは、恐いか?」

死角にあったが、おそらく彼の顔はニヤ付きがあったはずだ。星崎は声色からそう判断したのだった。

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