Episode5 悪夢が訪れる
「NAATS(ナーツ)計画始動許可を求めます」
研究員の承認申請を受け、作戦参謀が生体認証を行う。すると作戦司令室の大型モニターに『Nightmare Abilities and Tactics System』と表示される。起動音が響くとモニターにビデオ通信が表示され、青年の無機質な表情が見て取れる。俯いていた顔を上げ、口を開く。
「デストロイヤー運用試験の始動許可を確認。ウォルト・マーチ、発艦します。」
すると人型戦闘機体が勢いよく射出される。この機体は、背面のジェットを噴射させて飛行する。
ウォルトは試験項目に従って様々な動作を検証した。現段階の武装としては超光触サーベル、高密度光触ライフル、頭部ガトリング砲だ。これだけでもかなり影響を受けていると言っても過言ではない。この機体が舞う姿は地上で見る流れ星よりも綺麗だろう。
「やつの操縦は我々の"ロボット"の常識を塗り替えるようだな。」
作戦参謀が腕を組みながら言い、絶賛した。一同が暫くウォルトの検証行為を記録していると下士官が作戦参謀に耳打ちする。すると作戦参謀は司令室を後にして靴音を鳴らしながら歩き、行先である自室でモニターに向かう。そこには第二代惑星連合議会議長の姿があった。戦時中、この男はイゴール前議長に次ぐ副議長のポストにあった。
「ブルゴーニュ議長閣下、NAATS計画は成功しました。実用化までそうお待たせしないかと思います」
そう、彼らの計画は人型戦闘兵器を地球連邦よりも早く導入して制宙権を確保することだ。
「デストロイヤーは、連邦の寄生虫どもには漏れていまいな?」
作戦参謀が深く頷いたその時、作戦基地に激震が起きる。通信は切断され、モニターは真っ暗な闇へと変わる。それを目の当たりにしたブルゴーニュは頰を赤く染めて怒り任せに拳をデスクに叩きつけた。
「連邦め…あそこで世界を牛耳る者どもはいつもこうだ…!自分らのことしか考えない…。奪うことしかせず、邪魔なものは抹消する…。」
議長官邸の危機管理室では彼を含めた閣僚たちが涙を堪えながら強く心に誓った。地球連邦政府は、必ず滅ぼさなければならないと。
*
アメリカ_地球連邦軍統合作戦本部ではモニターで作戦が見守られていた。スミスは作戦成功をその目で確かめると席を立った。隠密作戦として計画を実行していたクレセントであったが、情報は漏れてしまっていたようだった。その後アメリカのニュー・ホワイトハウスでは会見が行われた。
「私はこれまで、職務として数々の人間の殺害を命令してきました。今回 失われた命は大きいですが、作戦目的である戦術兵器の回収により、救われた命はそれを大きく上回るのです。そして最後に哀悼の意を申し上げる。」
しかし、実のところはこの作戦が平和目的でないことなど、誰もが容易に想像できた。
そうだ。画期的な兵器はいつの時代も"相応の使い方"をされてきた。平和のため暴力などないのである。
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