Episode3 報復作戦
理事会では多数決により報復作戦が決定された。その採決は満場一致の賛成であり各メディアが大々的に取り上げた。何故なら大川首相は賛成する決断をしたのだ。日本が一千年の間 守り抜いてきた姿勢をいま、変えたのだった。帰国後に会見を開き、彼はテロ事件以来、考えていることを話した。
"従来の機能が失われ、世界が一つになりつつあるなかで、世界が大きく変わる未来を、私は確信しています。何故か、これからの戦いは地球の条件と根本的に違うからです"
そして、少し躊躇いを見せるも意を決して続く言葉を口にした。
「それは自衛という観点からも同様で、これまでの自衛隊は…言い辛いことですが…無意味に他ならないのです。」
ただし彼は自衛隊の優良点を挙げ、これまで培ってきた自衛隊という枠組みと新しい世界のかたちとで合理的な部分は引き継いでいくと宣言した。日本の条約機構総隊においては徹底したシビリアンコントロールが期されていることも説明した。会見後に休息をとる大川首相は、いつしか自分が若者だった時のことを思い出した。当時も未来を担う子どもたちに戦争や社会のツケを残してはならないと戦った政治家たちがいたこと、先輩たちが残したこの未来(現在)に自身が決断したことがどれだけ重大なことかは承知していた。それでも、未来と世界を守るためには、「宇宙人と戦うと思えばいい」と考え方にシフトしていくしかなかった。迫られた決断までの期間の中で「殺し殺されて良い者がいるのか」と倫理観に押し潰されそうにもなった。それでも…。
アメリカ某所______
理事会後、欧米諸国首脳たちが談笑していた。
「いつまで経っても日本という国は言いなりですねぇ」
彼らの話題だ。そうして皆、微かに笑みを浮かべた。そのなかでロシア大統領だけが不満そうな顔をしていた。
(ふん、連合国側が旧来の戦時中に起こした行為は正当化か…気に食わないな。確かに本国も批判されるようなこともあったがそれは過去の政府の話だ)
欧米諸国の中でも大きな溝があることも事実だ。これは今に始まったことではなく古くから世界であったことだ。一体、世界はどう変わるのか。彼らはまだ知る余地もない。
*
採決直後、軍事委員会は部隊編成を実施した。既に戦闘予定区域への発艦を開始しており1時間程度で艦艇の射出が完了する。
「全艦、戦闘予定区域へ向け全速前進。しっかりと着いて来いよ!」
総数65隻の艦艇が大気圏を超えて宇宙空間に出た。暫く航行すると敵影を捉え緊張が走る。
2947年8月13日に大川首相らは総辞職した。直後に、大川元首相は条約機構のステーションで補給整備した第一艦隊に合流して前線へ向かった。接敵の前に艦隊内から演説の生中継を開始した大川元首相。その途中、戦端が開かれ艦内には衝撃が響く。彼は力強く、そして涙を堪えながらに語った。
「人は道を誤らないかどうかを気にして生きている。当初は私もそうだった…しかし後悔はしていない。これからの世代の皆さん、どうか自分を信じて前へ進んで下さい。」
そうしていると砲撃が2,3度直撃した様だ。演説する大川元首相にクルーが艦がもう持たないと声を掛ける。
「国民の皆さん、大川政権にご支持を賜りありがとうございました。皆さんに平和が訪れることを…」
言いかけたところで艦体は大爆発を起こした。視聴者たちは驚きに包まれた。この配信をスミス大統領も視聴していた。
「ミスター オオカワ、あなたは何てことを…クレイジーで勇敢ですよ…あなたは…」
と、項垂れて静かに口にしたという。
この戦争で双方が甚大な被害を出した。地球側は辛うじて艦艇建造を成功させたが戦争の勝利は叶わず、大川元首相が戦地で散った。一方、クレセントは別動隊を撃滅されたことに加え、全軍指揮を執るため後方にいたイゴール大統領が条約機構別動隊によって撃破された。両陣営が首脳や政府要人を失った形となる。
_____そうして地球側と宇宙側の戦争が始まった。すべての始まりとなるこの戦争は2年続いた。宇宙で散った者たちの鎮魂式典が世界各地で執り行われた。それは停戦協定が締結された2949年8月14日のことである。
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