NAATS

下川科文

序章-新たな時代のためのエピローグ

Episode1 選択

2945年8月13日__東京

"速報です…アメリカの軍事施設にテロリストが押し寄せました。およそ2時間半に及ぶの戦闘の末にテロリストにより占拠された模様です"

ニュースの報道により日本にも大きな動揺が広がっていた。日本から遠いところにしかいないと多くの人々が思っていたテロリストが身近な存在であるアメリカで猛威を振っているのだ。


__首相官邸

「総理、あの場所は例の計画の拠点。これは我々にとっても大きな痛手では?かなりの人材と費用を投じています。」

大川外務大臣の言葉に閣僚たちが大きく頷く。閣僚たちが騒然とするのは無理もないことで、これまで日米主導の宇宙開発プロジェクトの拠点として運用している施設がテロリストにより占拠されているのだから。当然、外務大臣としては多くの邦人の人命が最優先ではあるが、投じたものの価値も理解していた。

宇宙開発は民間の協力を得て発展して太陽系で使用可能な星々に"第二の故郷"が完成しつつあった。その星々の権利は入札という形で宇宙行政合同機関(Joint Space Administration Agency)、通称JSAA(ジャサー)が民間企業に対して監督・使用権限を付与していた。そして今回、テロリストにより襲撃された施設はJSAA中央行政庁舎であり、その名の通り中央機関施設として中枢を担う。そこには邦人職員も多数在勤している。

後刻、総理は記者会見を開く。

「…このような事態ではありますが、我が国は憲法9条がありますから介入が難しいと、考えているところでありまして…」

記者たちが次々に質問をしていくが総理の回答は「対応を検討中」である。

それはアメリカでも同じであった。両国とも相手の狙いが分からない上に人類の将来を賭け多額の人材・費用投資をしているために迂闊に動けない状況が続いていた。


数時間後_______

全世界に目的不明のテロとして報道されているこの事件に新たな展開が起きた。

「ここで速報です。テロリストから声明が出されたとのことで、その模様をお送りします。」

報道各局は声明動画を配信した。

画面に映る男は朗々とした口調で目的を明らかにした。地球各国、主に先進諸国に向けた内容は次の通りだ。

一、我々は新たに惑星連合議会が主導する

  クレセントを建国する

一、宇宙開発プロジェクトは我々が奪取する

一、我が国の自治権を認めること

一、我が国は地球の先進諸国に宣戦布告する


世界にはこの声明を嘲笑う者が多かった。クレセント?惑星連合議会?宣戦布告?馬鹿げている。誰もがそう思った。しかしアメリカではすぐさまCIAが警鐘を鳴らした。彼らによれば先進国という具体的な宣戦布告先の選択が調査中の情報とリンクするからだ。これはCIAの調査でわかった事柄で発展途上国、中でも中東諸国を筆頭に秘密協定を結んだという情報を掴んだことによる報告だ。

それから日付が変わって、未だ各国首脳が対応に追われる最中に事は起こった。午前11時、日本では各地でJアラートが鳴り響いた。

「宇宙空間より数百隻に及ぶ宇宙艦船が飛来したとの情報が入りました。」

ニュース速報として報道されて世界各国が騒然とした。それは避けようもない。何故なら脅しではなく本当に攻めてきたことに加えて日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、ロシアの政府機関を始めとする各種官庁を何らかの構造のビーム砲と思しき軍事兵器で攻撃し、吹き飛ばしたのである。

それと同時にJSAA中央行政庁舎と職員全員が無事に解放された。しかし、多くの情報や資料はテロリストに奪取されたことが分かった。テロリストの計画は声明通り実行されつつあった。宇宙には10ヶ所程度の居住用人工衛星が建設されており、企業関係者をはじめ希望者が既に移住している。テロ事件の終結後、初めてJSAAによる会見が行われ事の経緯が説明された。機密文書を含む多くの資料・情報が奪取されたことも公開されたことで地球の安全に関する懸念が全世界に広がった。

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