Episode9 戦いの幕開け

 発進の直前、七星に呼び止められたコーパーは驚きのあまり全艦に停止を指示することにした。

「七星、友人とはいえ軍務遂行を止めることがどういうことなのかはわかっているのか?」

七星は暫く沈黙したのちに続けた。

「ああ…。聞いてくれ。俺は…なんてことをしてしまったんだ…」

突然のことにブリッジは騒然としたが、コーパーが制止した。彼はあっという間に場を静めて七星を第一艦隊旗艦に呼ぶように指示した。

まもなくして七星が艦長室に通されると、焦った様子そのままに口を開いた。

「すまない…脅されていて…。実は君らがここを出航した隙を狙ってクレセント軍のルナ・フリートが待ち構えてる。やつらの精鋭艦隊だ。」

話を聞くと、クレセント軍に地球連邦軍の動向を伝えなければ第7衛星と人々の安全は保証しないと脅されていたようだ。本来であればスパイ行為が発覚すればすぐさま統合作戦本部に通報して罰することになるが、コーパーはさり気なく彼をフォローすることにした。

「よく言ってくれた。君が騙されたフリをしてくれなければ我々の命が危険だった。七星社長はリスクを冒して地球連邦軍を救ってくれたと統合作戦本部に報告しておく。」

そうして2人は固く握手を交わした。コーパーはブリッジへ戻り、七星は彼らを見送り、心の中に友を思った。

(コーパー、生きて帰ってくれよ…)


地球連邦軍宇宙連合艦隊が第7衛星から出航したことを確認し、攻撃体制をとる艦隊がいた。そう、クレセント軍精鋭艦隊"ルナ・フリート"だ。

「全艦、主砲用意。」

全艦に指示が出され、いくつもの砲身が地球連邦軍の艦隊を捉える。砲撃をまさに指示しようとしたその時であった。旗艦前方の艦を超光触砲が貫通する。

「なんだと!くそ…あの日本人め!こちらも応戦しろ!」

激しい砲撃戦の最中、両軍が遂に人型戦闘機体と戦闘機を実戦投入することになる。夥しい数の機体が宙を舞う。

第二次宇宙大戦が開戦したのである。


まさかの展開になった。潜入捜査を初めて早々、地球側のパイロットたちが前線へ送られた。私も元からここにいたことになっているのはSOFLY機関の手配のおかげだ。そして勿論、いま私も前線にいてクレセント軍との交戦に入った。この状況ではフレイジャー大佐たちと連絡が取れない。一体どうしたら良いのだろう。

「艦内のパイロットに告ぐ。総員ただちに発艦せよ!繰り返す…」

どうやら私は地球連邦軍の人型戦闘機体に搭乗することになるようだ。実際に私が乗る機体を見つけるとシステムを起動する。なるほど、NAATS…。地球連邦軍も完成させているようね。機体は基本的にクレセント軍の仕様と変わらないから助かった。

「おい、聞こえているか?チェリー・ウィンター、発艦せよ!」

そうだった。偽名を使っていたんだったわ。返事をして発艦する。100機近くの機体がルナ・フリートへ近づく中、前方にクレセント軍機が見えてきた。あれはSOFLYの部隊だ。この戦場で会えたのはラッキーとでもいうべきだろう。しかし、安堵した瞬間だった。隊長機が全速力で飛び掛かってきたのだ。

(フ、フレイジャー大佐…?)

既に戦場は混戦状態にあったから私たちのこの取っ組み合いは幾つもの取っ組み合いの一つに過ぎない。フレイジャー大佐はそのまま私を大きなスペースデブリの影に連れ込んだ。

「周波数を合わせろ。」

淡々と話すフレイジャー大佐の指示に沿って回線を開ける。すると声色はいつものフレイジャー大佐に戻り再び私に命令を告げる。

「まさかの事態になったが都合が良い。マリー、この宙域で君の存在がクレセント軍に認知出来るようにしておいた。私も少しの間、"地球ども"を観測するが君も引き続き観測を続けてくれ。」

そう言うとフレイジャー大佐は機体を翻してこの場を後にした。

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