プライドの表裏を感じられる物語を、ここへ

 現代の車事情を短く纏めるとしたら、「爽快感よりもロマンよりも優先するものがある」という事になる中で描かれたモータースポーツものです。街を行けばミニバン、ローハイトワゴン、ハイブリッドばかりの世の中で、スポーツカーは絶滅する事を危惧すらされない印象さえあります。

 20世紀末には綺羅星の如く現れたスポーツカーにあっても、数が少なかったロータリーエンジンをメインに据えて、本作は始まります。

 ロータリーエンジンの歴史を見れば、ドイツで生まれ、クリアし難い欠点を抱えたまま放置されていたものを、日本が実用化にこぎ着け、90年代前半にはル・マン24時間耐久レースで優勝するなど、レースシーンでも活躍してくれた事、決して誉められた事ではないにしろ町の走り屋では「安く仕上げたければロータリーを使え」といわれていた事など、それこそロマンに事欠かない名機です。

 しかし昨今の環境事情――爽快感よりもロマンよりも優先するもの――のために、表舞台から姿を消して久しくなりました。

 現実のレースでも作中で描かれているとおり、ハイブリッド車、EVなどが勢力を強め、ガソリンエンジンは片隅へと追いやられていっています。レース資金も、フェラーリなどは特に「レースのために車を売っている」といわれていた事があるくらいだったものが、色々と様変わりしています。

 作中でも、オーナーとなったキャラクターの資金集めは、スマート、スノッブ、クレバーというような単語がよく似合うものです。

 時代遅れのガソリンエンジンを扱う主人公のチームと、それら新しい事からやってきたオーナーと、この対比が実に面白いのです。

 序盤だけならば「ロマンだけで食べた行くには賢すぎる女め」と、少々、男尊女卑的な事を思い浮かべてしまうかも知れませんが、全て読んだ時、この物語が持つぱわーは、全て引き込んでしまう事を知るはずです。

 爽快感やロマンよりも優先するモノがある世の中だけど、フィクションにはロマンだけ食べて生きていける世界がある、と、私の中にはそんな言葉が浮かびます。