5.彼女の悩み事
私たちはカウンターに移動し、ツカサさんと綺華さんはカウンターを挟み対面するように座った。
「悩み事があるってことでしたけど、できれば具体的に教えて欲しいのです。ただ、強要するものではないので話したくないことは話さなくても大丈夫ですよ。」
「わかりました。」
ここまで着いてきておいてなんだが、私はこの場にいていいのだろうかと思ってしまう。それでも、気になってしまい一縷の望みをかけ聞いてみた。
「あ、あの~。私はここにいない方がいいですか?」
綺華さんはバッと振り返って、焦ったような表情を向けてくる。
「いえ。むしろいてくれた方が助かります。」
「あ、はい。」
その勢いに気圧され気の抜けた返事をしてしまった。その様子を見たツカサさんは何を勘違いしたのか見当違いのことを言ってくる。
「二人は仲良しなんですね。」
「いや、その言いにくいんですけど、私たち今日が初対面で、話したのも今日が初めてなんです。」
「ああ、そうでしたか。なるほど。」
この言い方。何か知りたくてこの質問をしたことが容易にわかった。まあ、その何かが私にはわからないんだけど。
「では、共通の知り合いがいるとかですか?」
「そうです。稜っていうんですけど、その子に珮夏さんを紹介してもらったんです。」
「稜?どこかで聞いたような。・・・ああ、ハイカさんからよく聞くあの子ですね。いつも違う呼び方をしているから一瞬迷ってしまいましたよ。あれ?違いました?」
ツカサさんが私の顔を見て何かを感じたのか不安に思ったらしい。私は驚きのあまり声も出ず、多分変な顔をしていることだろう。口を大きく開けバカ丸出しの顔を。
でも、驚くのは仕方がないと思う。だって。稜って名前は数えるくらいしか言っていない。下手したら一回しか言ってないかもしれないからだ。なのに、ツカサさんはそれでも覚えていたのだ。
「あ、いえ。合ってます。」
「びっくりするのでそんな馬鹿丸出しの顔はやめてください。」
「なっ⁉ふん。別にいいですよ。私は馬鹿ですから。」
「そんな不貞腐れないでください。ほらこれあげますから。今日は特別に舐めてていいですから。」
「い、今は舐めませんよ。図書館は飲食禁止ですから、後で舐めます。」
そんなやり取りをしていると、なぜか笑い声が聞こえてきた。
「ふ、ふふふっ。もらいはするんだ。・・・あ、ごめんなさい。二人が仲良さそうだったもので、つい。」
「仲良くなんてないよ。ツカサさんが一方的に私のこと弄ってくるんだ。ひどいと思うでしょ、綺華さん。」
「それは、あなたが可愛らしいからですよ。」
「だそうですけど、珮夏さん。司吹さんはどうやらあなたのこと好きみたいですよ。」
「な、なな、何を言ってるんですか。ツカサさんが?私を?」
「・・・ぷっ、あははは。」
「な、何で笑うの⁉」
「ご、ごめんなさい。でも、司吹さんが珮夏さんを弄りたくなる気持ちわかりました。」
「ハイカさん。私は“可愛らしい”と言ったんです。“好き”とは言ってませんよ。」
「はっ。綺華さん」
「ふふふっ。でも、似たようなものじゃないですか。」
「そうですね。好きか嫌いかで言ったら好きですよ。」
「もう、二人して。そんなこと言っても、もう騙されませんからね。ふん。」
「だから不貞腐れないでください。付き合ってくれるんでしょ。」
「え!?二人ってそんな関係なんですか?」
「ち、違う。付き合ってなんかないよ。ツカサさんいきなり何てこと言うんですか?」
「私はただ、レファレンスに付き合ってくれるんでしょ。の意味で使っただけなんですけどね。勘違いさせてしまいましたか。」
「いえ、お二人が楽しそうだったのでもしかしたらって思ってしまったんです。こちらこそすみません。」
「でも、付き合うか~。私だったら、ツカサさんみたいに弄って来ない人がいいな。」
「そうですか?お似合いだと思うんですけど。」
「私よりも綺華さんとの方がお似合いだと思いますよ。ルックス的にもそれにさっき私を弄る時息ぴったりだったじゃないですか。どう思います?ツカサさん。」
「どうって。まあ、綺華さんはお綺麗ですし、付き合えたらそりゃうれしいですよ。」
「だそうですよ~。綺華さん。」
「ははははっ。仕返しのつもりですか。その手には乗りませんよ。それに私彼氏いますから。」
「え、そうなの?まあ、でも綺華さんなら彼氏の1人や2人いるか。」
「そう見えます?でも、お恥かしながら初めての彼氏なんです。」
「え~?嘘だ~。私が男だったら絶対にアタックしてますよ。うん。」
「ふふふ。ありがとうございます。」
「馴れ初め聞いてもいい?」
「馴れ初めですか?えーと、確か、講義が終わって教室を出ようとした時、彼が話しかけてきたんです。“さっきのとこ教えてくれない?”って。唐突なことで私忙しいからって断ったんです。
その時はそれで済んだんですが、講義の度にそう話しかけてくるんです。私は何回も断りました。でも、彼は諦めなくて、もううんざりして言ったんです。“私は教える気ありません。あんなに友達いらっしゃるじゃないですか。その方たちに聞いた方がいいですよ。”って。
それでも、彼は食い下がって“ははは。下心がバレちゃったか。君とお近づきになりたいって気持ちが。でも、これだけは信じて欲しい。講義を教えて欲しいのは本当なんだ。君のあの時の発言、面白いなぁ、って思ったんだ。だから講義の内容で話したいって思ったんだよ。だから君じゃなきゃダメなんだ。ダメ、かな?”って言ってきたんです。
何言ってんだこいつとは思いましたが、彼の真剣な目、力強い言葉、なのに最後の確認するところは消え入りそうで、なぜか私は“しょうがないですね。いいですよ。”って答えていたんです。」
「へぇ、そんなことが。彼氏さんメンタル強いですね。私綺華さんにそんなこと言われたら諦めちゃうかも。って言うことは彼氏さんから告白して付き合ったんですか?」
「え、えーと、確かそうです。」
「じゃあ、もう彼氏さんデレデレなんじゃないですか。」
「・・・そんなことないですよ。」
「ハイカさん。利用者を困らせてはいけませんよ。」
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