8. 感想


私は早足で閉架へと向かう。音をあまりたてずに、そしてなるべく早く。気になって仕方ない、はやく、はやくあの人のところに。



「ツカサさん、これってどういうことですか?」



ツカサさんは私を一瞥しただけですぐに作業に戻ってしまった。



「ん?ああ、読んだんですね、その絵本。」



「あっ」



気付いた時にはもう遅かった。サボっていました、と断言しているようなもの。



「あ、ああ、いや、これはその・・・」



「別に気にしなくてもいいと言っているのに。本を読むことも仕事の内ですよ。まあ、それだけやられても困りますが。・・・まあいいです。“どう”とは?」



ツカサさんは何も気にしていないようだった。よ、よかった。バイト代引かれなくて済む。あ、いや。それどころじゃなかった。



「あの、この絵本が見た目とか、勇気を持って話しかけようとか言いたいのはわかるんですけど、何で綺華さんに提供したのかわからなくて。」



「そうですか。ハイカさんはこの絵本を見てどう思いました?」



いや、私がどう思ったとか今はどうでもいいのに。でも、ここで答えなかったら聞かせてくれないかもしれない。



「え、えーと。そうですね。ウサギがすごいなぁ、と。多分私だったらウサギのようにはなれそうもない、と思いました。」



自分でもわかる小並感。でも、そう思ったのは事実だ。それ以上でもそれ以下でもない。



「そうですか。ハイカさんがそう思ったならそれでいいと思いますよ。」



ツカサさんは私の感想に笑いもせず、そう答えた。どこか突き放されたような言葉だったが、そこに深い意味はない、と私は思った。ただ、私はそれでは気が済まなかった。



「いや、私のことはいいんですよ。ていうか、言ったら、私の質問に答えてくれるんじゃないんですか?」



「そんなこと言いましたっけ?」



・・・言っていない。私が勝手にそう思っていただけだった。こうなったらやけだ。



「ツカサさ~ん。教えてほ、し、いなぁぁぁ。」



「嫌です。」



「ツカサお兄ちゃん。教えて、ね?」



「嫌です。」



「べ、別に、教えて欲しいわけじゃないんだからね。」



「そうですか。ならいいでしょう。」



「つ、か、さ、さ、ん。お、し、え、て、く、だ、さ、い。」



「い、や、で、す。」



「つかさ、疲れてるじゃろ。こっちで話さんか?」



「全然疲れてないので大丈夫です。」







そのあと色々試したが、ツカサさんが靡くことはなかった。なんかいろいろなものを捨てただけな気がする。もう疲れたし、これ以上やったら、精神がおかしくなってしまう。これで最後にしよう。



「ううう。ほんとに教えてくれないんですか?」



「ええ。教えません。」



「・・・ケチ」



「ケチで結構。」



完敗だ。もう、教えてくれることはないだろう。俯きながら閉架を後にしようとした。



「はあ、しょうがないですね。面白いものも見られましたし、1つだけ教えましょう。」



その言葉を聞いた瞬間私は、身を翻していた。なんか余計なこと言ってた気がするが気にしないようにしよう。



「本当ですか⁉」



「本当に現金な方ですね。まあいいです。綺華さんはあなたのこと、そうは思っていないみたいでしたよ。」



謎が深まってしまった。聞かない方がよかっただろうか。でも、うーん。



「どういうことですか?」



「これ以上はダメです。あと、聞きたいなら綺華さんに直接聞いてください。」



「それができないから聞いているんじゃないですか、もう。いいですよ、自分で考えますから。」



とは言ったものの、自分で思いつくだろうか。ああ言った手前もう聞けない。まあ、聞いたところで教えてはくれないか。




「はあ。」



「大丈夫ですよ。そんなに焦らなくて。」


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