3. 爽鷲綺華



返事がなかなか返って来ない。間違ったかと心配したがその必要はなかったみたい。彼女はこちらを向き、モグモグと口を動かしていたが、返事の代わりに頷きで答えてくれていた。返事が遅れていたのは、口に食べ物を入れていたかららしい。あたったことを嬉しく思いつつも、食事中に声を掛けてしまった嫌悪感に襲われていた。やっと飲み込めたのか彼女は話始めた。



「すみません。お昼がまだだったもので。申し遅れました。私咫蔭大学情報科学科2年の爽鷲綺華そうしゅうあやかです。」



「2年!?それも情報科学科!?うちの大学で一番頭いいところじゃないですか。」



こんなに落ち着いた感じなのに同じ学年なんて驚きだがそれよりも情報科学科に所属していることに興奮してしまった。実は私も情報科学科を受けてはいたのだが落ちてしまった。それで私は心理学科に所属している。まあ、こっちも狙ってたのでいいのだが。



「そんなことないですよ。それに私、学科でビリのほうだと思います。」



謙遜だと思ってしまう。というかこの雰囲気はその逆だと思わせる気品見たいなものが感じられる。ただ、それは嫌味には聞こえることはなかった。そんなことより今私は興奮していたのだ。



「もしかして、司書の講義取ってます?」



「え、ええ。私データベースに興味があってそれで受けてるんです。」



あやかさんは私の興奮具合に若干引いているような感じがする。私は極力抑えるよう努力した。



「そうなんですね‼・・・あっ、すみません。共通点があって少し興奮してしまって。」



彼女は嫌がるどころか女神のような微笑みをこちらに向けてくる。



「ふふっ。別に気にしてませんよ。最初は驚いてしまいましたが、私も共通点があって嬉しいです。」



はあ、癒される。なぜかこの人と仲良くなりたいという気持ちになってしまう。いつもはそんなことあまりないのだけれど。



「あの、同じ学年だし、敬語やめませんか?」




その言葉を言ってからふと思った。浪人とかそう言うのを考えていなかったと。ただ、彼女にとってそんなことはないと思ってしまう。というかそう思いたかったのかもしれない。



「そうですね。と言いたいところなんですが、私敬語が抜けなくて。すみません。ただ、ハイカさんがよろしければ溜口でもいいですよ。」



それはそれで申し訳ない気がしたが、仲良くなりたい一心で意を決する。



「じゃあ、お言葉に甘えて。よろしくね。綺華さん。」



「ええ、こちらこそ宜しくお願いします。珮夏さん。」



まださっきの説が拭え切れないので、さん付けはしているが、とりあえず自己紹介兼ファーストコンタクトは成功といっていいかな。というか何か忘れているような気が・・・



「あの、いきなりで悪いんだけど、もう出られる?」



「おや、ハイカちゃんが探してたのはアヤカちゃんだったのか。」



タイミングがいいのか悪いのかマスターがコーヒーを運んでくる。そこには可愛いうさぎの絵が描かれている。マスターは顔に似合わず可愛いキャラクターを描くのが得意なのだ。ってそんなことはいい。



「さっきのは忘れて。それ飲んでからでいいよ。」



「ごめんなさい。なるべく早く飲みますから。」



眉毛を下げ、申し訳なさそうに言ってくる。これはまずいと思い私も飲み物を頼む。喉乾いてたしね。



「マスター、メロンフロート一つちょうだい。」



「はいよ。」




二人とも飲み物を飲み終えようやくラクシオンを出た。



「本当に悩み事話さなくてよかったんですか?」



「うん。二度手間になっちゃうでしょ。もう一度言うけど解決してるのは私じゃないからね。」


「そうなんですね。私てっきり珮夏さんが相談に乗ってくれるものだと思ってました。」



どうやらアヤカさんは解決しているのは私だと思っていたらしい。しおちゃんは重要なところを話さないんだから。もしかすると、あの建物のことも知らないのかもしれない。



「あの、それと一応言っておくけど、何を見ても驚かないでね。」



「え、ええ。」



そう返事はするもののアヤカさんは怪しんでいるような気がする。それにしても、アヤカさんの近くにいるとむせ返るほどに暑いはずなのになぜか、涼しい感じがする。黒髪ロングなので暑苦しくないのかと思っていたが、風でなびくその黒髪は暑苦しいどころかどこか涼しげだった。



「えっ!?ここ!?」



アヤカさんの驚いた声が目的地に到着したことを告げる。



「ええ、残念ながらここが目的地です。」



何か悪徳商法でもしているような感覚に陥り、敬語に戻ってしまった。このままだと引き返してしまいそうだったので、無理矢理なかに連れ込む。多少強引ではあるがなかを見れば考えも変わるだろう。



「ほら、暑いし、早くなかに入ろう。」



「ちょ、ちょっと待ってください。私やっぱり・・・」

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