6. いつの間にか
なぜか声が後ろから聞こえてきた。振り返ると、そこには本を一冊持っているツカサさんがいた。いつの間にいなくなっていたのだろう。そんなことよりツカサさんに言われたことで私が何をしでかしたかわかってしまう。
「ご、ごめんなさい‼綺華さん。こんな根掘り葉掘り聞いちゃって・・・」
私は綺華さんの方に向き、頭を下げる。でも、返事が一向に来ないので、おそるおそる顔を上げるとポカンと口を開けた綺華さんの姿があった。怒ってはない、かな。
「ああ、いえ。これぐらい大丈夫ですよ。それに珮夏さんが話やすくて私もしゃべり過ぎちゃったかもしれません。つまらなかったでしょ、私の話。」
そういう綺華さんの声は特段怒りも呆れも感じられなかった。
「そ、そんなことないよ。え、えーと・・・」
私は言葉に詰まってしまった。この時何といえばいいかわからなかった。それにツカサさんに声をかけられる前に言っていた言葉も気になる。ここで下手なことは言えないだろう。困ってツカサさんの方を見ると、助け舟を出してくれた。
「それより、あなたに提供する“情報”、決まりましたよ。これです。」
そう言うと、さっき持っていた本を綺華さんに差し出した。ただ、綺華さんは受け取るのをためらっているようだった。
「えっ。でも、私まだ具体的なこと言ってませんよね?」
「まあ、無理にとは言いませんが、とりあえずタイトルだけでも見てください。悩みを抜きにしても面白いものですよ。」
綺華さんも私もツカサさんの持ってきた本に視線を落とす。
「“おしゃべり好きなうさぎ”ですか。」
そう言うと、綺華さんは気になったのかどうかわからないが、手を伸ばし、本を受け取っていた。
「では、私たちは向こうに言っていますので、読み終わったら声を掛けてください。・・・ほらハイカさん何しているんですか、行きますよ。」
「え、あ、はい。」
私もあの本が気になって一緒に見て見たかったが、ツカサさんにああ言われては仕方がない。ツカサさんの後を追った。席を外す途中綺華さんに一言かけようとは思ったがすでに本に夢中でそれどころではないようだったので声を掛けるのはやめた。
「あの、ツカサさん。あれって絵本ですよね。」
「そうですよ。何か問題でもありますか?」
「い、いえ。ただ、なんであの絵本なのかなって気になったんです。絵本なことも気になりますし、内容も気になります。」
「あの絵本は・・・止めておきましょう。あとで、自分で読んで見てください。」
何かを言いかけてツカサさんは途中でやめてしまった。
「何でやめるんですか⁉・・・ケチ。」
「ケチで結構。それより、仕事をしてください。バイト代払いませんよ。」
ツカサさんに臍を曲げられ、バイト代が入らなければ、家賃が払えなくなってしまう。私は精神誠意気持ちを伝えるべくピシッと体をまっすぐにし、敬礼をする。
「版棚珮夏身を粉にして働かせていただきます‼」
そのあと、私は書架の整理へと向かった。足早に、でも音をなるべく立てずに。
「まったく、あなたは現金な人ですね。」
そのあとどれくらい経っただろうか。まあ、絵本なので長くて二分程度だと思う。でも、私はその短い時間が長く感じてしまった。今か今かと待ちながら書架を整理していると、ツカサさんに声を掛けられる。
「彼女帰りましたよ。」
「えっ!?帰っちゃったんですか。」
色々話したかったのに。それに連絡先も交換していない。友達になりたかったのに。
「そんながっかりしないでください。そんながっかりしなくてもまた会えますよ。」
ツカサさんはそんな根拠のない言葉を投げかけてきた。
「綺華さんはどんな様子でした?」
「そうですね。覚悟を決めた顔をしていましたよ。まあ、表情は硬かったですけど。」
緊張していたってことかな?はあ、ますます気になってしまう。
「ハイカさん、深入りしちゃいけませんよ。まあ、友達としてならいいと思いますが。」
「ううう。そのチャンスを潰したのはツカサさんです。なんで帰る時呼んでくれなかったんですか?」
「まあ、いいじゃないですか。彼女にまた会えるんですから。」
「それ、答えになってないです。」
「それより、これ。読まなくていいんですか?」
ツカサさんは私を軽くあしらってさっきの本を私に差し出した。ただ、私は一点気になったことがある。
「これって、サボりになりませんか?」
「あははは。なりませんよ。そんなに気になるならいいです。ただ、これ元に戻しておいてください、私閉架で仕事がありますので。お願いしましたよ。」
そう言ってツカサさんは本を私に押し付け去っていった。これは読んでいいってことだよね?私はこの絵本のページをめくった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます