2.晴れない心

とげちゃんは唖然としていた。

「それだけ?」

「うん、そしたらあっさり受けてくれたの。まあ、内容は聞かないで」

思い出してもあの時のレファは拙いものであったと思う。ただ、館地さんは何も文句も言わず待っててくれた。そして、ツカサさんの力も借りて私が選んだ本を読んで一言“まだまだだな”と言って帰って言った。でも、そこには怒りの感情はなかったように思えた。そこから館地さんのことを怖いとは思わなくなった。癖の強いおじいさんぐらいにしか思わなくなった。まあ、館地さんの一言にイラっとする時はあるけど。

「うーん、何が気に食わなかったんだろ」

とげちゃんはまだ悩んでいた。そこに、ツカサさんが用事を終え図書館に戻ってきた。

「今戻りました。道中館地さんに会いました。大丈夫・・・ではなかったようですね」

「はい。怒らせてしまいました」

「だから気にしなくて大丈夫だよ。館地さん、司さんに用があったみたいです」

「そうだったですね。まあ、珮夏さんの言う通り気にしなくて大丈夫ですよ。で、館地さんはどんな本を探してるって言ってましたか?」

ツカサさんがとげちゃんにそう質問すると、顔を少し歪ませた。

「その、私から声をかけたんです。結構な時間本を探しているようだったので。それでレファレンスの説明をしたら怒られて。なのでどんな本を探してるかは何もおっしゃっていないです。すみません、余計なことを」

ツカサさんがすべて納得したようで私を見てなぜか苦笑いをした。

「何ですか?」

「いえ、何も」

ツカサさんが苦笑いしている理由がわかるからこそ、腹の底から何かが湧きたってくる。

「綺華さん、余計なことじゃないですよ。寧ろ積極的でいいと思います。館地さんは多分前に読んだ本を探してたんでしょう。今度来たら私を呼んでください」

「はい。わかりました」

声色からもわかるぐらいまだとげちゃんは落ち込んでいるようだ。するとツカサさんが私に近づき小声で話してきた。

「珮夏さんあの時の本覚えてますか?」

「あの時の本?」

「はあ、まだまだですね。あなたが館地さんに・・・」

その言葉でツカサさんがどの本のことを指しているのかわかった。そしてこのあとどんな話をしようとしているのかもわかった。私にとっての黒歴史を話そうとしているのだ。

「あー、あの本ですね。わかってますよ。あれですよね。あれ」

私がツカサさんの話を遮ったことにより私の黒歴史を聞くことは免れた。

「もうお昼です。二人とも休憩してください。あとは私が見てますから」

「ほら、とげちゃん休憩しよ」

「うん、あれ珮夏休憩室こっちでしょ」

「あーちょっと用あるから先行ってて」

「わ、わかった」

私は急いであの本を取りに行く。ツカサさんにとられる前に。

「あ、あった」

「さすがに覚えてましたか」

そこにはニヤリと笑うツカサさんがいた。本に気を取られていたからか気が付かなかった。

「うっ、お、お先に休憩頂きます」

そういって、休憩室に向かう。ツカサさんの手の平の上で転がされているみたいで癪だがとげちゃんのためだ。それもあるがツカサさんから私の黒歴史込みで話されるのを阻止するためだったりもする。この図書館での先輩としての威厳を守らねばいけない。

「やっときた、何してたの?」

「うん?ちょっとね」

「ふーん」

とげちゃんが舐めるように私を見ている。私はサッと本を後ろに隠しゆっくりと椅子に腰かけた。

「はあ、私どうしたらよかったのかなって」

「館地さんのことまだ気にしてるの?」

「うん」

私は内心しめしめと思っている。この話にならなければこの本を出しづらいからだ。少し出来過ぎなような気がしないでもないが。

「だったら、これなんか読んでみたらいいんじゃないかな」

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