インターネットの楽しさと、たしかな希望を感じられる物語

世の中がコロナ禍といわれるようになってから、いつのまにか、もう1年半ほども過ぎてしまいました。
医療者としてだれかの役に立てるわけでもない、なんの力を持っているわけでもなく日常を暮らすしかない私は、どのように日々を過ごしていったら良いのか……と、無力感のような気持ちに襲われる時もあります。
大人でさえそうなのですから、子どもたちや若い人たちは、もっとそうでしょう。
お友達とマスクを外して笑い合うこともできず、楽しいはずの行事も中止になり……もやもやした気持ちで過ごしている人も多いと思います。

主人公の沙友里も、その一人です。仲の良い姉も帰省できず、お友達と集まることもできない長い夏休みに、つまらない気持ちを抱えて過ごしています。
そんな沙友里が、はじめて一人で訪れたカフェで「文学少女」というアプリのチラシと出会うところから、物語は始まります。
文学作品の本文から作品名を当ててくれるという「文学少女」とメッセージをやり取りするうち、沙友里の心に、小さな変化が現れます。そして、ひとつのことを成し遂げると決めるのです。
それと同時に、「文学少女」のメッセージも、これまでと少し変わったものになります。

沙友里がどんなチャレンジをしたのか、そして「文学少女」アプリとのやり取りの顛末は、ぜひ作品を読んでいただきたいのですが、
閉塞的で、ともすれば人との繋がりが頼りないようになってしまうこのコロナ禍に、小さな、でもたしかな希望を灯すような物語だなと思いました。

インターネットがイコール匿名であるというのは、SNSが発達してお友達同士フォローし合うのが主流になった現代では、もう時代遅れなのかもしれません。
でも、画面越しに顔の見えない相手とやり取りするドキドキ感、ふだんの生活の中では会えない人と知り合えることの実りの大きさは、いまでも残っていると思います。
そんな「インターネット」の楽しさを、この小説であらためて感じられました。
もちろん、それだけではなく、沙友里とお友達との関係、沙友里のチャレンジを励ましてくれるクラスメイトの存在など、みずみずしい高校生の、青春の場面も存分に楽しむことができます。
勝手な印象ですが、筆者の「物語を書くこと」への愛情や情熱も伝わってくるようで、前向きなエネルギーを感じました。

小さな一歩が、だれかに力をあげられることもある。
若い人も、大人にも、おすすめの小説です。