神話、だったと思う。
前半部分は「あの子」の秘密の日記を覗いてるみたいな、感傷に満ちた文体で描かれる、思春期らしい学生生活なのだけど、この部分だけでも、細かい部分のリアリティや具象、「語り」の力に驚かされる。そして、物語は少しずつ非日常へと向かっていって、それはラテンアメリカの重厚なマジックレアリズムみたいな、しかし今までには一度も感じたことのないものでもあり、その筆力ゆえに、現実と地続きなものとして確かに感じられる風景だった。
ここにあるのは、想うということ、創るということ。殺すということ、生かすということ。欲望するということ、欲望されること。「海」とは羊水であり、生命が生まれて、そして流されていく。それは、『古事記」においてイザナギとイザナミの二神から生まれた子が船で流されていった時みたいに。この世界が生み出されたあの時から、すべてはもうどうしようもないくらいに分節されてしまったのだと、感じた。
内容の密度ゆえに、読み進めるのは少し苦しいくらいだったけれど、読み終えた後には決して忘れることのできない印象を与えられる、本当に豊かな作品でした。
この物語がなにの話なのか、私には上手に語れません。
主人公は高校生の想子。転勤族の娘で、ひとりっ子。転校が多くてともだちと長く一緒にいられないこともわかっていて、どこかシニカルな目線で世の中を眺めているような女の子です。
そんな想子ですが、転校先の山口県で、はじめて(?)心をゆるせる友達に出会い、好きな人に出会い、しかし、別れの日はまたやってくる。「姉がほしい」という呟きは、ドライな関係を保ってきた母親への、小さな反抗のようなものだったのかもしれません。
かわいくてちょっと変わり者?魅力的な主人公に心を掴まれているうちに、風景は一変します。
本当に自分には姉がいるのだと知った想子は、姉を探す旅へ、そして・・・。
多感な少女の日常生活の物語だと思って読み進んでいると、いきなり、そう、道をあるいていたらいきなり目の前に海がひらけるように、さっと舞台は非日常へと移ります。
そこから先の怒涛の展開は、ただ読んで体感してほしいと思うのですが、この物語の素晴らしいなと思うところは、ポッと非日常に放り込まれるにもかかわらず、決して置いてきぼりにはされなかったというところです。
それは、著者の筆力でもあると思いますし、ただ単純な文章能力というのに限らず、主人公の気持ちの揺れ動きにしっかりと、誠実に寄り添って最後まで書かれているからだと思いました。
にゃんしーさんの小説は、とても、人間らしいなと思います。不安定さや強さやドロくささ、情けなさ、いろいろが混ざり合った人間は、なんだかいとおしい。
この物語がなにの話なのか、私には上手に語れませんが、
ファンタジーなのかもしれないし、ガールズ・ラブかもしれないし、でも、そんないろんなものがないまぜになった、人間のお話かなと思います(水竜も出てきますが)。さみしさや、せつなさ、悲しみ、怒り、愛、いろいろがまざりあった、苦しいけど、なんだかいとおしいお話です。
最後まで引き込まれて読ませていただきました。読み終えて、とりあえずエンターサンドマン、youtubeで検索しました。(^^)
すごい……ちょっと言葉が出ません。私のレビューなんて読まなくていいから、今すぐこの素晴らしい小説を読んでほしい。それが正直な気持ちです。
コメントにも書きましたが、オリジナルの小説世界にまず圧倒されます。借り物の言葉ではない、作者の内側から湧き上がってくる、真に迫ったものを感じます。
マジックリアリズム、という既存の枠すら軽々と飛び越えて、独自の手法に到達していると思います。まるで新しい神話の誕生に立ち会ったような、不思議な気持ちです。
読む方もそれなりの覚悟を持って対峙しなければ、受け止められない小説ですけど、読めばきっと大事な何かが残ると思います。
さあ、ページをめくりましょう!
何だか凄いものを読んでしまった、と、物語を一気に読み終えてしまってから思った。
初めは主人公・想子の学生生活を追った青春物語なのだろうか、と思いながら読んでいたのだが、姉の創子に会いに行くことになったところから全てが一気に変化する。
想子の今時の女子高生らしい、けれども独特な世界観による軽妙な語り口にぐいぐい引き込まれ、同時に焼け付くようなひりひりした感覚を覚えた。
それは思春期の少女の性との距離感の危うさや、何処へ行き着くかまるで分からない気だるげな江泊での暮らしへの焦燥感や、繰り返される海へのイメージに感じる憧憬と恐れだったりしたと思う。
際どい描写もあり、残念ながら万人に勧められるような物語ではない。
けれども、数話読み進めて琴線に触れた人には、是非とも最後まで読んで欲しい。