感傷に満ちた、一つの神話
- ★★★ Excellent!!!
神話、だったと思う。
前半部分は「あの子」の秘密の日記を覗いてるみたいな、感傷に満ちた文体で描かれる、思春期らしい学生生活なのだけど、この部分だけでも、細かい部分のリアリティや具象、「語り」の力に驚かされる。そして、物語は少しずつ非日常へと向かっていって、それはラテンアメリカの重厚なマジックレアリズムみたいな、しかし今までには一度も感じたことのないものでもあり、その筆力ゆえに、現実と地続きなものとして確かに感じられる風景だった。
ここにあるのは、想うということ、創るということ。殺すということ、生かすということ。欲望するということ、欲望されること。「海」とは羊水であり、生命が生まれて、そして流されていく。それは、『古事記」においてイザナギとイザナミの二神から生まれた子が船で流されていった時みたいに。この世界が生み出されたあの時から、すべてはもうどうしようもないくらいに分節されてしまったのだと、感じた。
内容の密度ゆえに、読み進めるのは少し苦しいくらいだったけれど、読み終えた後には決して忘れることのできない印象を与えられる、本当に豊かな作品でした。