第11話

ーー枕営業って本当ですか?


…え。枕営業ってなんのこと?

流れてきたコメントに、思わず目を疑う。


しかも、そういったコメントは一つじゃなかった。

そもそも、どこから枕営業なんて言葉が出てきたのだろう。それに、私は枕営業なんてしていないし、持ちかけられたとしても断る。

…うん。いつもなんだかんだ流されてしまう私だけど、そこは流石に断る。


(とりあえず、今は配信に集中しなきゃ)


この事は、後で小野田さんに相談してみようかな。

直接的なアンチコメントではないから、そのままでも問題はないんだけど。


でもやっぱり、デマが広まることは避けたいし、もしかしたら暗黙は肯定と思われてしまうかもしれない。

対策できることは限られてしまうかもしれないけど、とりあえず相談するくらいは良いよね。


ーーよし、頭を切り替えよう。


私はこの事は一旦忘れ、質問コーナーを進めていくことにした。

昨日答えられなかった質問もたくさん答えることができたし、それに対して喜んでくれるお客さんを見ることができて、とても嬉しい気持ちでいっぱいになった。


「じゃあ、今日の配信はここまで~!今日もありがとう~!バイバイ!」


ーそして、私のVTuber生活二日目も、無事に幕を閉じた。


◎◎


「今日もお疲れ様です。とても良かったですよ。」


配信が終わり、今日も小野田さんから電話があった。

小野田さんがとても親身に、そして優しく接してくれるのも、私がVTuberを楽しめている理由の一つだと思う。


「ありがとうございます。私も楽しかったです。」


「それは良かったです。今日は配信も長かったですし、お疲れでしょうから簡単に明日の説明だけして終わりにしますね。」


そう言い、小野田さんは明日の配信の説明をしてくれた。


今は小野田さんがある程度の枠組みを決めてくれているけれど、馴れてきたら自分の好きなように配信して良いらしい。


そしたらどんな配信をしようかな。

カラオケ配信はとても楽しかったから、定期的にやりたいな。


でも、明日のコーナーも楽しそう。

とりあえず今はいろいろやって、どんなコーナーがお客さんに好まれるのか試してみるのが一番だよね。


喜んでくれるお客さんを想像して、また心が嬉しい気持ちでいっぱいになった。


「ーっと、こんな感じです。…ふふっ。電話越しにワクワクが伝わってきますね。」


相づちがかなり上機嫌だったのだろうか。

明日の配信が楽しみでワクワクしている私を見透かされてしまい、とても恥ずかしくなった。


「うう、恥ずかしい…。でも、それくらい楽しみなんです…!説明もありがとうございます!私、頑張りますね!」


「ふふ、ありがとうございます。それでは、明日の事は大丈夫そうですね。他の事でなにか質問はありますか?」


なければ、今日の打合せは終わりにしましょう。と小野田さんが言った。


ーー質問。

私は今日の配信で気になったコメントを頭に浮かべた。

配信中は小野田さんに聞いてみよう、と思っていたが、聞いてどうにかなるものなのだろうか…。


ううん。悩むのはよくないよね。

まだ短い付き合いではあるのだけれど、私の中で小野田さんは信頼できる相手だ。

それに、とても優しい人だと思う。

だからきっと、親身になって聞いてくれる。

…出会いはちょっとあれだったけどね。


「あの、今日の配信の事なんですけど…。枕営業…ってコメントが気になって。」


私は恐る恐る質問した。

すると、小野田さんは少し間をおいて、枕営業ですか…と少し険しい声で返してきた。なにかを考えているように思える。


「はい、いくつかコメントがありまして。心当たりはもちろんないので、無視しても良いのかなとは思ったのですが、念のため。」


「…そうですね。確かにいくつかあったと思います。こちらで少し調べてみるので、石山さんはなにも心配しなくていいですよ。調べたりするのもやめておいた方がいいと思います。」


一瞬、心の隅っこで検索してみようと思っていたから、ギクリとした。


ーーそうだよね。調べてる最中に批判的なコメントに出会ってしまうかもしれない。

そしてそれを見て落ち込まない自信はない。きっと明日の配信にも影響してしまう。


こんなところまで気を遣ってくれる小野田さんはやっぱり優しいな。

よし、この件は小野田さんに任せよう。


「ありがとうございます。私はとりあえず気にしないことにしておきますね。」


「はい、それがいいと思います。それでは明日もよろしくお願いしますね。」


小野田さんが電話を切ったことを確認し、私も電話をきる。


ーーうーん。気になるけど、とりあえず今は小野田さんに任せよう。


……………

 

その後、配信生活は大きな問題もなく、二週間が経過した。


だが、枕営業のコメントがおさまることはなく、日に日に数が増えていった。

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