第3話
石山唯、24歳 独身一人暮らし、彼氏なし。
--訳あって、ニートになることが決まりました。
◎◎◎
「え…?会社、潰れちゃうの…?」
久しぶりの全体朝礼。
社長が開き直ったような堂々とした態度で、会社の倒産宣言をした。
…最近、会社の経営状況が危ないことには気が付いていた。
同僚だってどんどん辞めていったし、賞与だってでなかった。
でも、仕事は毎日あったし、やりがいは感じていたから、辞めるって決断はできなかった。
今思えば、みんな辞めていったときに私も辞めれば良かったんだ。
でも、社員が一人辞めていくたびに、社長は私に、「石山さんはできる子だから、辞められたら困っちゃう。一緒に頑張ろうね。」と言ってきた。
あまり人に頼られたことのなかった私は、それが少し嬉しくて、もう少しだけ会社に貢献しよう、と頑張ってしまった。
それに、昔から自分の意見を言うことが苦手だった私は、退職しますの一言を伝える勇気を出すことができなかった。冷静に考えるとばかだなぁ、私。
「それで、今月末でみんな解雇になるから。失業手当とかは各自でちゃんと申請してね。」
そう言い残すと社長はオフィスから出ていってしまった。
ー今月末…って、今日はもう20日ですけど。。
◎◎◎
どうしよう、来月からニートだ。。
残っていた社員はせめてもと、残りの有給を消化させてもらえることになった。
それと、他の人が確認してくれたらしいが、なんとか今月分までの給料はちゃんとでるらしい。
帰り道、電車に揺られながら転職サイトとにらめっこ。
転職経験のない私は正直どんな求人が良いかもわからないし、突然の倒産だからやりたいことだって定まっていない。
同じ業種の会社に転職…といっても、今はどこも厳しいだろし、即日雇ってくれる会社なんてあるのかなあ。。
とりあえず、お母さんに相談しようか。
でもそれで解決するわけじゃないし、逆に心配かけちゃうだけかも。
それに、実家戻ってこいって言われちゃうだろうし…。
せっかく東京に憧れて上京したっていうのに、田舎に逆戻りはいやだ。
金銭面はちょっときつくなっちゃうけど、頑張って一人で解決しよう。
…あ、そうか。お兄ちゃんに相談って手も…。いやいや、最近連絡とってないし、お兄ちゃんだって今はもう赤の他人の私からいきなり相談されたら迷惑なはず!
「うううー、とりあえず今日は飲むかー!」
飲む、といってもこのご時世。
居酒屋やバーで飲むのはすこし気が引けるから、スーパーでお酒とおつまみを買って、感動する映画をみて大号泣してやろう。これは私おすすめのストレス発散法だ。
そんなことを考えていると、最寄り駅に到着した。
私は電車から降りて、改札口を目指し歩き始めたのだが、
「すいません、これ落としましたよ。」
突然、背後から男の人に話しかけられた。
「…!すみません、ありがとうございます!」
なにか落としてしまったのだろう、と思い後ろを振り替えると、なにも持っていない男の人がたっていた。
見た目でいうと、イケメンの部類。でもなんだか信用できない雰囲気を醸し出している。って、いやいや、落とし物を拾ってくれたんだからそんな失礼なこと思っちゃダメ。…って、なにも持ってないから怪しさMAXなんだけどね。
「…私、なにか落としちゃいました?」
おそるおそる聞いてみると、男の人はにこりと笑って、いいえ、貴女がきれいでつい話しかけてしまいました。と全く心のこもっていない台詞を口にした。
あー、ナンパか。。
ナンパははじめてではなかったが、電車に降りたところを話しかけられたのははじめてだったから油断していた。
それに私は、ナンパを断ることがすごく苦手だ。
「あー…。ありがとうございます…大丈夫です。」
あー、またちゃんと断れなかった。
いつもうやむやな態度をとってしまう自分に嫌気がさしたが、とりあえず今は逃げるしかない。
私はもう一度前を向き歩き始めた。しかしその男はずっと背後からついてくる。どうにかして巻こうと人混みの中に突っ込もうとしたが、それは私の腕をつかんだ男によって阻止されてしまった。
「あの、話だけでも聞いてください。」
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