第9話

「うわあ、こんなのもあるのか。」


リンクをクリックし、表示された掲示板。

そこには桃奈咲良の技術力不足を指摘している書き込みから、デビューしたてなのに目立っているのは、枕営業しているから。といった、真偽がわからない書き込みまで、様々なものがあった。


「まあ、SNSが平和だったからな…」


恐らく、これが芸能人に対する書き込みだったら、俺は気にも止めないだろう。

だが、これは妹へのコメントだ。気にしないわけがない。

それに、技術力不足については仕方がないところもある。だって、昨日デビューしたんだから。


枕営業については、やってないだろう。

…確実ではないが、妹はそういうことを持ちかけられても断わるはず…

いや、押しに弱いタイプだ。もしかしたら…。


思わず最悪なことを考え、ブルリと身が震えた。これについてはまず考えないようにしよう。

それに、書き込みの内容からしてひがんでいるだけにみえる。きっと嘘だ。

そもそも、もし本当だとして、どこからその情報が漏れたのかって感じだもんな。


「でもこの内容は、妹に見られたくないな。」


きっと妹のことだ。こういった書き込みを見てしまうと考え込んでしまうだろう。

とりあえず今兄としてできることは、妹がこの掲示板に出会わないことを願うだけだ。


「といっても、多分調べちゃうよな。」


例えば自分がVTuberをはじめてとして、SNSや掲示板で自分の名前を全く検索しないか、と問われたら、答えはNOだ。


毎日とまではいかないが、評価が気になり調べてしまうと思う。

そこで俺みたいにたまたま書き込みを見つけて、この掲示板にたどり着いてしまったとしたら。


「絶対落ち込むよなあ。」


でも、人気商売はどれもそうなのかもしれない。

アンチに耐えられなければそれまで、といった厳しい見方をする人の方が多いだろう。


ーーそれにしても、まわりに相談できる人とかいるのだろうか。


どういった経緯でVTuberをはじめたのかはわからないが、もし一人ではじめたとしたら、誰にも相談できないんじゃ…。


でも、妹のことだ。

一人でVTuberをはじめるというのはあまり考えられない。

もし事務所とかに所属しているのであれば、その人たちに相談することもできるし、あるいは事務所がアンチコメントへの対応をしてくれるだろう。


…ああ。でも妹は事務所の人に相談できるのだろうか…。

考えれば考えるほど心配になる。

でも、今俺にできることはなにもない。


「って、配信中だったよな。」


せっかくの桃奈咲良の配信なのに、

一人で暗い気持ちになってても仕方がない。

配信はいつの間にかカラオケコーナーから質問コーナーへと変わっていた。


俺は冷蔵庫からビールを取り出し、配信の続きをみることにしたが。


「まじかよ…」


ーー枕営業って本当ですか?


そこには、妹に見られたくないと思ったばかりの事が、コメントにいくつか書き込まれていた。

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