第6話

私はどうにかして答えようと、他の質問に答えながら、下ネタ系の質問に対する回答を考えた。


そう、別に下ネタにひどく嫌悪感があるとかではない。ただ、桃奈咲良の設定資料には、胸のカップも下着の色も書いてなかったから…


んんん。ここはもう、私の胸のカップを言ってしまおうか。今ここで適当なカップを言ってしまうと、後々設定を忘れたときに面倒になりそうだ。

下着の色は桃色。うん、桃奈だし、桃色でいいや。これなら忘れないし、下着の色は毎日変わるものだ。問題ない。



(あれ、小野田さんからチャットだ。)



満を持して(?)下ネタ系質問に対応しようと思った矢先、小野田さんからチャットがはいった。


--下ネタ系は、無理して答えなくて大丈夫ですよ。


…あ、そうだった。小野田さんが配信中にも質問できるようにってチャットルーム作ってくれたんだった。

ここで桃奈咲良の胸のカップを聞ければ良いのだけど、配信中で返信をする余裕はない。

質問してくれた人には悪いけど、お言葉に甘えて今日は答えないようにしよう。


それでも、後で桃奈咲良の胸のカップとか、好みの下着とか、そういう設定も小野田さんに質問しておかないと。

次質問されたときには答えてあげよう。


そんなこんなで私は他の質問に答えていった。

時間はあっという間にすぎ、気が付けば配信終了の時間。


「じゃあ、今日の配信はここまで~!

また明日も配信しようと思うから、よろしくね!」


こうして、私のVTuberデビューは無事に終了した。



◎◎◎◎



「はあー!疲れたけど楽しかったなあ!」


配信前はいろいろと不安もあったが、

いざ配信してみるとすごく楽しかった。

なにより、普段少し内気な私が、こうしてたくさんお話しできている。


「直接話してるわけじゃないからなのかなあ」


確かに、話をしている相手は画面越し、そしてコメントでの参加。

私も、石山唯としてではなく、桃奈咲良として配信しているのだから、普段の生活とは大きく違う。


いつもよりもたくさん話せた、というのも別に不思議なことではないのかもしれない。

それでも、なんだか自分が良い方向に変われたのではないか、と少し嬉しくなった。


明日の配信も楽しみだなあ、とワクワクしながら頭のなかで今日の反省会をはじめる。


♪♪


「あ、電話だ。」


反省会をはじめてすぐ、スマートフォンが着信音をならした。

画面を確認すると、小野田さんの名前が表示されている。私はすぐに応答した。


「もしもし、お疲れ様です。」


「今日の配信、素晴らしかったです。明日もよろしくお願いします。」


電話にでると、小野田さんはまず褒めてくれた。もしかしたらお世辞なのかもしれないが、配信後で少し気分が興奮している状態の私は、そんな思考にも至らず、素直に喜んだ。


「こちらこそです。とても楽しかったです、ありがとうございます!」


喜びが電話越しに伝わったのだろう。

小野田さんはクスクスと笑い、話を続けた。


「明日の配信ですが、カラオケ配信と時間が余れば少しだけ質問コーナーという形式でいこうと思います。

それと、スーパーチャット機能の申請も通りましたので、明日から開放します。」


「スーパーチャット…!もう申請通ったんですか!?」


ーそう、小野田さんからは事前に、初回配信はスーパーチャットが使えないという話を聞いていた。

それに、申請が通らないと使えないから、すぐに使えるようになるかもわからない。という話だったはずだ。


「うん。それだけ桃奈咲良の配信が人気だってことですね。今も、チャンネル登録数がどんどん増えていっていますし…でも最初のうちはあんまり気張らなくていいですよ。」


そういい小野田さんは、スーパーチャットの仕組みについて改めて説明をしてくれた。


「ーとまあ、こんな感じで、簡単にいうと課金すると目立つコメントができる、みたいなものです。」


「なるほど…それだとやっぱり、優先的に読んでいくべきですよね?」


私はふと浮かんだ純粋な疑問をぶつける。


「そうですね…。やっぱりスーパーチャットは目立ちたい、読んでもらいたい!って気持ちで使うお客さんが多いので、できるだけ反応してあげるとお客さんも喜ぶと思います。ああ、でも今日みたいに、下ネタとか石山さんがダメだって思ったものはスルーしても問題ないですよ」


私は配信中に、チャットで小野田さんが気を遣ってくれたことを思いだし、違うんです、と否定をした。


「いえ!あの…私はせっかく配信にきてくれたから、できるだけ答えてあげたいな…と思ってたところでした。ただ、桃奈咲良のそういう設定がわからなくて…。」


そうだよね、確かにあの状況じゃ、私が下ネタを嫌がっていたようにみえる。

そういうわけじゃなかったんです、桃奈咲良のそういう設定がわからなかったんです…。。


すこし落ち込んだ様子も伝わってしまったのだろうか。小野田さんはまたクスクスと笑っていた。


「ふふっ、女の子なのにすごいですね。胸のサイズとか、下着の色とかの質問があったかな…あとで今日の配信を見返して、ある程度にはなるけど、桃奈咲良の設定に加えておきます。更新したらご連絡しますね。」


「助かります、ありがとうございます。」


やった!これで明日は答えられる!


「あ、最後に。これは前にも言ったのですが、必要以上にSNSで検索するのは控えたほうが良いですよ。評判が気になるのもわかるのですが…その、やっぱり変なことを書き込んでいる人とかもいるので…」


そろそろ電話も終わりかな、と思っていたところで、小野田さんがそう話し始めた。


…私が配信前にSNSチェックしてしまったのは内緒にしておこう。


でも、その時に私が見つけたのは、桃奈咲良に対して好意的なものばかりだった。


それでもそれは配信前のはなし。

配信後となった今は、私が演じる桃奈咲良をみてガッカリし、変な書き込みをしている人だっているかもしれない。


…だとしたらショックだ。


「…わかりました。それではまた明日、よろしくお願いします。」


とりあえず私はわかりましたと返事をし、電話を切った。


…気になるけども、今日は検索するのをやめておこう。

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