花の葬列――人間の土地――

　西暦二〇四三年、安価かつ高性能な無人機とそれを運用する民間軍事企業とが戦場の主役となりつつあった。シリア留学中の学生で宗教学を専攻する学生である林辰はその種の企業の筆頭であるＳＤＣＦに入社した。彼の師である片桐が日本で暗殺されたことで卒業後に帰国する動機をなくしたからだ。彼はアブドゥルアジズのクーデターを鎮圧する戦いの中で彼の精神的支柱であった伝説的な戦士アリーと、恋愛感情を抱いていた女性である遼子とを失う。
　三年後、彼はこの二人の死者に対し愛情や憧れや後悔の入り混じった湿った感情を抱いたまま、黒海へ異動することとなる。彼はオデッサでエヴァ・ハラリを名乗る少女と出会う。彼女は辰が以前シリアで助けた少女と瓜二つで、名前も同じだ。このオデッサの少女エヴァ　の保護者であるアレクセイという男は少…続きを読む