『あのころは近所のサイゼリアで「犬はなぜ自殺をしないのか」ということを昼から夜まで延々と話し合っていた』これはエッセイの一節の冒頭である。なんともドキドキさせるような書き出しである。この一文だけでエッセイとして価値のあるものだと確信を得ている。犬怪寅日子さんの文章は鋭利に尖ったナイフに思わせながら、それでいて、悲しくなるような繊細なのだ。文章というか作品に向き合っている人しか書けないエッセイだ。ざわつかせるのだ。心を。上からでもなく下からでもなく、真正面から受け止めたい心情の吐露が、なんとも言えない感動を覚える。犬怪寅日子さんの酔ってしまうようなぐるぐる渦巻くようなエッセイを是非読んでいただきたい。そして犬怪寅日子さんの妖しい魅力を感じてほしい
ふわふわと小気味のいいリズムの文章に誘われて、ふらふらと迷い込んでしまった文章の波。そこら中にツボが置かれてあって、RPGの主人公が自由にツボを割って中の持ち物を勝手に持っていくのを許すように寛大な気持ちで受け入れてくれる。
そんな(?)エッセイです。
片っ端からツボを割っていきましたが、大体のツボに笑いが入っています。それがたまらなくなって、どこもかしこも笑い散らかした後が残っています。こりゃ参った。
するすると誘われるまま迷い込んだら、そこは素敵な街でした――。というよりも、更に入り組んだ迷路の中。そこらかしこに色んな発見が置かれてある、好奇心を刺激するしかない構図。
最初に見かけたいかにもな道が実は外に通じている唯一の道だった、風に見せかけてやっぱり全部の道から外に出られるような安心感。
何度でも潜りたくなりますよ。