ベトナム戦争の影
「あんた、バカ? 宿帳なんて個人情報の塊じゃない」
「言葉の綾がわからない女ね! 民泊協会でステイながみねの評判くらい訊けるんじゃないの。どんな国の人々がメインターゲットとか」
あかしが何か考えている間に、みとりが顔を上げて言った。
「?」
その後、何を話したかはわからない。だが、あかしが答えられることは何もなかった。
みとりは気を引き締め直す。あの公園の方角を向いている。
「行く」
その後、公園が見えてきた。薄煙に包まれて異様な雰囲気がただよう。遊具が虚しく揺れている。人の気配はなく、木々や草木が静かに生を謳歌している。綺麗だわ。あかしは思わず花に目をとめた。キンカンや梅、桃の花が咲いている。そのうち花びらが勝手に寄せ集まって花のアーチやフラワーロードを形作った。まるで透明人間が祭りの仕度をしているようだ。想像力豊かな人間はそこに人ごみや賑わいを補完できるだろう。
「ざわついてる…」
「ええ、確かに集まってきているわ」
みとりはあかしに同意した。
「異郷の鬼…で、間違いなさそうね。この雰囲気」
風がバタバタとみとりのスカートをはためかせる。裾が盛大にまくれあがり腰の紺無地に二重線が丸見えになってる。
「ちょっと…」
あかしがたしなめようとした時、か細い声が聞こえた。
Hmoob ntawm kuv lub hlwb.
thov koj muab rov qab rau nws.
Muab kuv rov rau hauv kuv lub siab.
みとりはすっくと立ちあがり、セーラー服を風にそよがせつつ、答えた。
「Gaox mol haid dus?」
すると、間髪を入れず「Mol zhed」
かぶりをふり、みとりは畳みかける。「Gab naox?」
あかしはわけが分からず、思わず口をはさんだ。
「ちょっと、みとり。誰と会話してるの。つか、何語?」
「モン語よ。Hmoob」
すると、ざらついた英語がどこからともなく聞こえて来た。
ラジオか何かか耳障りな空電ノイズが混じる。
They especiaus there brahme alonger, but it doses for the deep a general jungle! They asked it on surely! The street for lasso strangeshots. But some passion has a fewer or legisker, does the girl of a cafe? He usually going a code ack up??
The behavior of the rosary home, so you have a color that does not like awake me eat the doing eyes, we ended close it as in the bousen°
全く、意味をなさない。ただ、ところどころに狙撃だの、投げ縄だの物騒な語句が混じっている。
「あかし、これは何だと思う?」
「ラジオ…にしちゃ、変ね。やりとりがある」
「これは、無線の会話よ。米軍の交信を拾ってわざわざ聞かせてる」
「さっぱりわけがわからない。平和な虹京都に軍隊だなんて」
「立志舎大学平和研究所が等持院新町にあるでしょ」
「等持院ってさっきのベトナム人の店じゃない」
あかしは地図アプリで確認する。
みとりはいう。モン族は
立志舎大学に大勢の留学生がいた。その一部は戦後も残り平和研究所を築いた。「それが騒動にどうつながるの。平和になってよかったじゃない」
いぶかしむあかしにみとりはきっぱりと言った。
「戦争はおさまっても
「でも、なんでみとりに反応したの」
すると制服のスカートがふわっと浮き上がった。まるで見えない手が何度もめくるように。
「やぁねぇ。これは麻の生成りじゃなくて体操服なの」」
みとりが裾を直すと靴音がした。トコトコと誰もいない場所に足跡がついていく。
子供がどこかで騒いでいる。
「あそこにいるの?」
あかしが指で指さして言った。
よく見ると、子供用のアパートではなかった。真ん中に大きく穴の空いた家に小さな女の子が遊んでいた。そこには血まみれの遺体が折り重なっている。
屍の真ん中に大きな包みがデンと置いてあり、隙間から腕が垂れていた。
「みとり、ちょっと」
あかしは梱包の柄に目を見張る。濃紺に白の平行線。
「階級章か何かを象徴しているつもりらしいわ、だいたい察した」
みとりは眉間をもんだ。まさか21世紀にもなって冷戦を
目になろうとは想定外だった。
遺体は少女の親族らしい。女の子はときおり話しかけている。
「望郷の鬼…今回はうかつに手が出せない。ステイながみねの騒音、あれはガスフレアリングかもかもしれない。」
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